海外の同窓会支部と協力して、進学サポートを行う

マイスターです。

大学の教育環境を表現する上でしばしば登場する指標の一つが、「留学生の多さ」です。
かつて日本の大学では、留学生を見かけることはきわめてまれでした。しかし現在では、世界数十カ国から学生を集めているような大学もあります。ようやく日本でも、そういう視点を持った大学が認知され始めてきたんだなと思います。

そんな、世界各国から大量の優秀な留学生を集めている日本のある大学の関係者に話を聞いたのですが、その大学では、日本国内の受験生獲得のためのスタッフが2~3名であるのに対し、海外を対象にする仕事をするスタッフの人数は、20名程度だそうです。

国内についても海外についてもこれは言えると思うのですが、受験生を集めるためには、ちゃんと「営業」を行うことが大切だと思います。
日本国内に関しては、各大学とも見事な横並び意識を発揮し、新聞や受験雑誌に広告を出したり、高校訪問をしたり、オープンキャンパスを実施してみたりしているようですが、これが海外相手となると、とたんに「誰も何もしない」という状態になるのが不思議です。

よく、「日本の大学には留学生が少ない。アメリカではこんなにいるのに……」という主張を耳にします。その際、言語の優位性や、日米の国力の差、教育システムの違いなどが主な理由としてあげられますが、マイスターは、もっと根本的なことがあると思います。
「世界から受験生を集めたい」と考えているアメリカの大学は、各国の有力な高校に対して、ちゃんと営業をかけています。十分な資料を用意していますし、必要に応じてスタッフが現地に行って説明もしているようです。また、留学生の多様な要望にこたえられるよう、十分な寮を整備したり、食事や宗教などの生活習慣に関する相談にも乗れるようなスタッフを用意しています。
じゃあ一方で、日本に、海外の高校に営業スタッフを展開する体制を整えている大学が果たしてどのくらいあるでしょうか?
冒頭でご紹介した大学は、ほとんど唯一と言っていい事例であって、他の大学では残念ながらここまで組織的に、具体的な行動を起こせていないのではないかと思います。

日本の大学関係者の多くは勘違いしています。

アメリカは「何もしなくても世界中から学生が集まる」国ではないのです。「世界中から学生を集めるための努力をしている大学が多い国」なのです。
日本は、理工系の科学技術力を始め、アジアやアフリカなどから留学生を集められるだけの国際競争力を今も持っていると思います。ただ、「世界中から学生を集めるための努力をしている大学がほとんどない国」なのです。

日本の大学の入試部門は、英語のwebサイトをつくれば、世界中の高校生がそれを自分で見に来て、勝手に興味を持って海を越えて出願してくれると思っているようです。また、英語版の薄いパンフレットを制作して大使館に送れば、その国の有力高校にそのパンフレットが届き、自動的にお声がかかるような世の中だと思っているようです。
当然、実際にはそんなことで留学生が来るはずもありません。国内のシステム化された学生獲得業務と同じ感覚で、海外のことを処理しようとしているだけです。めんどくさがっているだけではいけませんよね。

かといって、冒頭でご紹介したような海外営業体制をいきなり構築するのも、そう容易ではありませんよね。
それに、いきなり全世界を対象にしようとするのはやはり無理があります。試しにどこかで実績を作ってノウハウを蓄積していきたいところですが、かといってどういう活動から手をつけていいかわからないという向きも多いでしょう。

そこで今日は、↓こんな事例をご紹介します。

【教育関連ニュース】—————————————–

■「進学を支援へ 帯広畜産大学同窓会が相談」(サンパウロ新聞)
http://www.spshimbun.com.br/content.cfm?DO_N_ID=12332&blog_id=393964
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「日本で勉強したいが、どこに行けばいいのか」と悩みを抱える日系子弟には朗報だ。

帯広畜産大学ブラジル同窓会(新井重孝代表)は、日系社会の若者に対して同大への進学支援を始めた。

同大同窓会の具体的支援としては、同大への進学相談などに応じ、助言、提案を通して訪日後の不安を解消してもらおうというのが狙いだ。

ブラジルにある大学同窓会が日系社会に手を差し延べることは極めてまれ。
(略)
実際には、現在一人の日系二世が同窓会を通して同大へ留学中のほか、新たに二人の日系子弟が進学の準備を進めているそうだ。

新井代表は「私たちが最初のきっかけを与え、引き受け先を紹介できればと思っている。(若者たちに)畜大を生かしてもらえれば」と話している。
(上記記事より)

■帯広畜産大学
http://www.obihiro.ac.jp/

というわけで、海外にある同窓会組織が、大学への進学支援を行い始めたという事例です。

多くの大学にとって、これは盲点だったのではないでしょうか。

ちょっと歴史のある大学なら、同窓会組織の中に、海外の支部があったりしますよね。海外の日本人達は、それぞれ現地で日本人コミュニティを作っています。

海外で暮らす人にとっての悩みの一つは、子供の教育。高校までは、現地の日本人学校という選択肢もありますが、そこから先は、そうもいきません。
日本の大学に進学するか、現地の(もしくは他国の)大学に進学するかというところで迷う方々も、少なくないと思います。
ただ、日本の大学を受けるにしても、オープンキャンパスに出席したり、OB・OGの知り合いから話を聞いたりという訳には、なかなかいきません。
そもそも、「日本の大学教育の様子をよく知らない」という方もおられると思います。

大学としても、そういった方々のご要望にお応えしてスタッフを派遣するなどしたいところです。がしかし、日本国内で高校訪問に行くのとは違って、そうそう個別にスタッフを派遣するのも大変です。

そこで、現地の同窓会組織の登場というわけです。

試しに、海外で暮らすOB・OGが多そうな大学の同窓会webサイトをいくつか見てみました。

■「東京外語会:海外支部一覧」(東京外語会)
http://www.path.ne.jp/t-gaigo/branch.htm
■「地域ソフィア会所在地一覧(海外)」(上智大学ソフィア会)
http://www.sophiakai.gr.jp/jp/modules/info5/index.php?id=2
■「ICU Alumni Association Web Site:支部」(ICU Alumni Association
http://www.icualumni.com/shibu/index.html

上から順に東京外国語大学、上智大学、国際基督教大学の同窓会です。東京外国語大学に至っては世界中に47支部があり、なんと国内の支部数より多いです。文字通り、世界をつなぐ同窓会組織だと言えましょう。

海外に同窓会誌部を持っているのは、何もこうした語学に強い海外志向の大学ばかりではありません。試しに強固な同窓会組織ネットワークで知られる、↓この大学についても見てみました。

■「地域三田会:海外」(慶應義塾大学連合三田会)
http://www.rengo-mitakai.keio.ac.jp/contents/search/chiiki-ov.html

これまた多いです。こちらはメンバー数が表示されているので、どのくらいの規模の支部なのかイメージが掴めて興味深いですね(上海だけで250名、ニューヨークには530名のメンバーがいるそうです……)。

これを、使わない手はありません。
進学に悩む現地のメンバー達と、海外から受験生を獲得するためのノウハウを蓄積したい大学とで、お互いにメリットがあるような協力体制を築きましょう。

現地の日本人子弟の進学相談に乗る、
大学(&付属校)の詳細な学校情報を、同窓会ルートで迅速に届ける、
OB・OGの体験談コンテンツを作成する、なんてのがすぐに浮かびますね。

また日本でのアパートやアルバイト(大学院生ならTA等)の斡旋や奨学金の紹介など、一緒にサポートできることも多いと思います。

さらに、ある程度の参加者を集められる場所なら、同窓会と大学が共同で、現地での出張大学説明会を行うことだって、可能です。あるいは逆に、現地からの大学見学ツアーを大学が企画するというのも良いと思います。

その先には、帰国子女向けの「出張サテライト入試」や、海外での就職先紹介といったサポートが考えられます。

そうやって手厚く支援をしていくことで、現地の同窓会コミュニティとの関係がより強固なものになっていくはずです。

以前、エンロールメント・マネジメントについてご紹介したときに書かせていただいたのですが、エンロールメント・マネジメントを展開する際のポイントは、「生涯を通じてのサポート」です。

海外に暮らすOB・OGの場合、日本国内と比べて困っていることや悩んでいることが多い分、大学が支援できることも多いはずです。これは大きなチャンスです。

単に「海外から学生を呼ぶ」というだけで終わるのではなくて、その学生が卒業して現地に戻り、いつか自分の子供を大学に進学させるときのことまで考えた支援を目指していくと、国内で同じことをやる以上の効果があがるかもしれませんよ。
大学は、常に現地のコミュニティから意識されているような存在になれれば良いのではないかと思います。

* * *

冒頭でご紹介した、留学生の多い大学の関係者の方が、こんなことをおっしゃっていました。

大学のスタッフが、アジアのある国の高校を訪問し、優秀な生徒がほしいと訴えたそうです。そうしたらその後、なんとその国の大統領から直接電話が来たそうです。

「今までこんな風にあなたの国から、こうして人材を求めに来られたことはなかった。非常に嬉しく思います。これからもよろしくお願いします」

という、お礼の電話だったそうです。
その国の高校の関係者や大統領は、「海外から、自分たちが必要とされているんだ」という点に感激したのだろうと、マイスターは思います。

そうやってやってきた学生さんは、その国でもトップクラスの学力を持った若者ですから、日本でもあっという間に日本語を覚え、めきめきと成長していくのだそうです。その大学の方は、「世界中から学生を集めようとしないのは、日本だけです。こんな閉鎖的な国は他にない」とおっしゃっていました。

そんな話を聞くと、他の日本の大学ももっと海外諸国に出かけて優秀な学生さんを集めればいいのに、どうしてやらないんだろう? とマイスターなどは思うわけです。

一つには、そういった業務を担えるスタッフが日本の大学にいないということもあるでしょう。でも、それなら外から引っ張ってくれば済む話です。
やっぱり、無難に横並びのことだけやっていたいという意識が強いのが、一番の原因なのかなと思います。

まずは手始めに、海外の日本人コミュニティにいるOB達と連携しながら、少しずつノウハウを積み上げていってはいかがでしょうか。
「日本から、必要とされている」というメッセージを受け取ったら、彼等も喜ぶはずです。

以上、マイスターでした。