高校訪問は、相手の問題を解決するために行う取り組みだ

大学職員2年目ということで、様々な学内行事に参加しているマイスターです。

その一つが、「高校訪問」。
全国の大学教職員の皆様も、6~7月あたり、行かれたかも知れませんね。

今日は、その高校訪問について。

ご存じない方にご説明いたしますと、大学が行う「高校訪問」というのは「大学の通学圏を中心に高校の進路指導担当者を訪問し、大学を売り込む」という取り組みです。

平たく言えば、営業です。

最近では、ご存じのように少子化で受験生の数が減少していますから、どの大学も高校訪問に力を入れはじめており、今では高校訪問は、大学にとって「やるのが当たり前」の活動になっているわけです。
これまで高圧的だった大学が、急に(見た目の上では)腰を低くして訪問してくるようになったわけで、高校側もさぞ最初はびっくりだったでしょうね。

そんな高校訪問ですが、いろいろとお話を聞いていると、大学によっては

「ライバル大学は、学内総出で○校の高校をまわったらしい」
「何ぃ!? 本学も負けていられないな。
 うちはその1.5倍はまわるぞ!」

などといった感じで、「どのくらいの数をこなすか」ということが目標になってしまっているところもあるようです。
マイスターは、やるのであれば、ちゃんとターゲット校をある程度絞って訪問すべきと思うのですが、「訪問数」にこだわるあまり、それができていなかったりするのですね。

ひどい大学になると、各地域の高校リストを教職員に配り、
「はい、好きなところに行ってきて。最低、1人10校がノルマね」
と、数だけを指定するような入試部門もあるそうです。

偏差値でいうと、30代から70代までのレベルが混じったリストです。それを、手当りしだいジュータン爆撃しろということですね。

これでは、いけません。
前々からマイスターは本ブログで、

<大学は『手段』にはこだわるが、それで『成果』をあげることには無頓着>

ということを何度もご指摘申し上げていますが、高校訪問も、まさにそういう事態に陥りがちな取り組みのようです。

大学にも高校にも、それぞれ自分達のターゲット層というのがあるのです。

何人も東大合格者を出しているような進学校と、
「生徒の大半は就職します」という工業高校とを、
いっしょくたに考えていいわけがありません。

そんなの、訪問される方も迷惑でしょう。
大学が高校訪問する場合は、進路指導の教員を訪ねて行く事が多いと思うのですが、こんな認識で訪問されたら、相手は困るはずです。

マイスターが思うに、大学のエライ人達の中には、

「いや、かつての顧客層だけ見ていてはダメな時代なんだ。
 どんな相手に対しても、本学の良さをアピールしていかなければならないんだ。
 だから、こちらは訪問の労を惜しんでいる場合ではないのだ」

のように語る方って、結構おられます。
(皆様の大学ではいかがですか?)
これは、一見もっともなスローガンであるように思えます・・・が、ひとつ、とても大事な視点が欠けています。

それは、高校訪問は、営業だということです。
そして、営業の目的とは、商品を売ることではなく、相手の悩みを解決する事だという事です。

例をあげてご説明しましょう。

例えば、自動車メーカーの営業マンは、自社のクルマをお客さまに売らなければならないわけですよね。しかしその際、「クルマを売るのが自分の仕事の目的だ」と考えると、実はあまりいい成果が出ないのです。

「お客さまが、困っておられるから、自社の製品でそれを解決してもらうのが自分の仕事だ」という認識を持って営業を行うと、成功しやすいのです。

買い手の身になって考えてみれば、これは当たり前です。

私たちはクルマを買う際、
「子供達と一緒にクルマで家族旅行したいなぁ」といった要望や、
「今は電車通勤だけど、距離が近い割に乗り換えが大変だなぁ」
といった悩みを抱えており、それをどうにかしたいと思ってクルマ屋に行くわけですよね。
「クルマならなんでもいい」と思ってお店に行く人は、あまりいないと思います。

そこで、です。
「子供と一緒に旅行したい」と思ってクルマ屋に行ったのに、営業から

「今、本社はスポーツカーに力を入れています。今、とても売れていますから、ぜひお客さまもどうぞ!」

と言われたら、どう感じますか?
そんな営業から、クルマを買いたいと思いますか?

そうではなくて、

「あ、家族旅行用ですね。でしたら、こちらのワゴン車か、こちらのファミリーカーなどはいかがでしょうか。前列のシートが前後にスライドするので、外に出なくても、後部座席のお子さまの方に直接移動する事ができて安心ですよ」

など、自分達のニーズを理解して、それを満たすことに努めてくれるような営業さんについてもらいたいと思いませんか?

「営業の目的は、ものを売ることではなくて、お客さまの悩みを解決することである」というのは、つまりこういう意味です。

翻って、大学が行っている高校訪問です。

「かつての顧客層だけ見ていてはダメな時代なんだ。
 どんな相手に対しても、本学の良さをアピールしていかなければならないんだ。
 だから、こちらは訪問の労を惜しんでいる場合ではないのだ」

といって、それぞれの高校が持っている悩みや要望を無視し、ジュータン爆撃のようにかたっぱしから訪問してまわる大学に、はたして、上記のような営業の心構えがあるでしょうか?
「どんな相手に対しても、本学の良さをアピールしていかなければ」というのは、あまりにも一方的な認識ではないでしょうか。

高校には、高校ごとに持っているニーズがあります。
学力の違いもはっきりありますし、

 男子学生/女子学生、
 文系/理系、
 普通科/専門科、
 都心/郊外/地方、
 ほとんど進学/半々/ほとんど就職校

などなど、学校が設定しているミッションの違いもあります。
また、

「理系のコースを選ぶ生徒が減ってきて困っている。理工系や医療系の大学の学びについて、生徒にうまく説明できないものか」とか、

「学際系学部が林立しているが、それぞれ、どういう学びがウリなのか、よくわからない」とか、

そんな疑問や悩みを持っている高校もあるかもしれません。

でも、そんな高校側の要望や悩みに対して、大学の関係者がやることは、

「本学に新学部ができました。ぜひ、受験して下さい」
「受験の方法を多様化しました。受けやすくなりましたから、ぜひどうぞ」
「毎年、生徒さんを送り込んで下さってありがとうございます。今年もよろしく」

と、一方的に自分の側の都合で説明をして、名刺をもらってパンフを置いて帰るだけです。
それで、「よし、今年は○○校の高校を訪問したぞ。これで受験生が増えるかも」なんて、満足してしまっているのです。
現在の日本の大学の高校訪問というのは、残念ながら、まだそういうレベルなんです。

相手の要望を解決していないのに、ものが売れるわけはありませんよね。
ひどい場合だと、訪問自体が、迷惑になっていることすらあると思います。

マイスターが思うに、大学関係者の大半には、ちゃんとした営業経験がありません。
特に高校訪問の戦略を立てる偉い人(ずっと大学で働いてきたベテランや、大学の教員)は、そうです。

使える人員と時間は、限られています。
高校の方は、複雑化する大学入試の仕組みと、増え過ぎた新学部に対応しきれず、困っています。大学を見る目も、これまで以上に厳しくなっています。

そんな状況だからこそ、ちゃんと営業戦略を練った方がいいんじゃないかと、マイスターは思うのです。

数をこなすことだけを目標にしていては、いつまでたっても、大学の入試部門が高校から頼りにされるようにはならないんじゃないでしょうか。

大学には、「相手の要望や悩みを解決するような高校訪問」を目指してほしい、マイスターでした。

4 件のコメント

  • ごもっともな意見です、
    通り一遍の説明で高校訪問を終わらせているのが現状でしょう。
    営業に出でるならそれなりの研修が必要ですよね、

  • 私の働いている大学は、それぞれ担当の地区が決められており、回って来いという感じです。
    入試担当が作成する簡単なマニュアルもあるのですが、マイスターさんのおっしゃる様に、新学科・受験方法などを説明してこいというものです…
    確かに営業未経験者でもこれならなんとかやってこれますが、成果に結びついているとは到底思えません。
    これからより受験者数が減っていく中で、無駄に全国を回る交通費や宿泊費を使うよりも、営業にかかる経費の一部を、より魅力をアピールできるようなWEBサイトの構築や、成果を期待できる高校訪問をできる職員を養成するためにお金を使った方が良いのでは?と思ってしまいます。

  • さすが大学の職員!まったく高校訪問というのをおわかりでないようで・・・。
    私は専門学校と大学の広報を15年近く従事している者です。つね日ごろから大学の広報は10年は遅れていると思っていますが、このような方がいるからそうなんだなあと改めておもいました。高校訪問=営業? 冗談をいってはいけません。あなたはモノを売っているのですか?よく学校業界では広報という言葉を使います。広報とはよく言ったもので、ではなぜ大学の部署に営業部という部署がないのか。この営業と広報との差や違いを判らない以上、高校訪問や広報活動に就くべきではありません。また一番に高校生に対して非常に失礼極まりない事です。 だから今、専門学校広報経験者が大学からひっぱりだこなのも頷けます。私もその一人ですが、最初は大学の広報活動にはびっくりしたものです。もちろん広報活動などと呼べるものではなかったのですが・・・。学校広報にはもっと大事な、大切に考えなければならないものがあるのです。それに気付かないうちは大学もまだまだ厳しい時代が続くでしょうね。

  • takeさま
    はじめまして。
    5年近く前に書いた記事が、今もこうして読まれていることを嬉しく思います。長く専門学校で広報活動に従事されていた方の意見はとても貴重です。ぜひ色々とご指摘ください。
    大学人に限らず、企業の方でも、利益を上げるために学校のことを伝える活動に対し「営業」「宣伝」という言葉を使うことはあるように思います。もしかすると、こうした言葉に、大学の「遅れ」が表れているのかな、とコメントを読んで思いました。
    もしよろしければ、専門学校の皆様が一様に「営業ではない」と考える理由について、より詳しく教えていただければと思います。他の読者の方にとっても、参考になると思います。
    どうぞよろしくお願い致します。