職員採用試験の競争率が349倍 大阪府立大学

一年半前、中途採用で大学職員になったマイスターです。

採用の情報は、ネットで見つけました。「中途採用:若干名」と書かれていました。

元々、学科構成などは知っている大学でしたし、サイトをじっくり読んで、良いなと思えました。これはと思って応募してみると、書類選考の後に、筆記式の基礎学力試験が課せられていました。
中途採用なのに学力試験を課すというやり方に、そのときのマイスターはちょっと驚きました。大学って、やっぱり学力のある人が好きなのかなぁ……でも、それってどうなんだろうなぁ。などとカルチャーショックを受けたりしました。

しかし、試験会場に行って、はじめて、その理由がわかりました。
その会場にはなんと、150~200人近い応募者がいたのです。
「若干名」の枠に、それだけの応募者が殺到していたのですね。何かで絞らないと、とても面接試験が行えないという状態だったわけです。
筆記→面接→面接と続き、最終的に採用通知をもらえたのは結局、3人でした。

マイスターは、学校のガバナンスやマネジメントに関する研究で修士論文を書いていたので、その延長線上で、大学で働くことに興味を持ちました。
でも「大学で働く」っていうのは、自分では、かなりマイナーな選択肢だと思っていたのです。

ですから、応募者の人数を見て、
「大学のスタッフって、こんなに人気の職業だったの!?」
と、とっても驚いたのでした。

さて、今日は、大学職員の採用に関する報道をご紹介します。

【教育関連ニュース】—————————————-

■「大阪府立大:職員募集で大人気、競争率349倍 法人化で初、1747人殺到」(毎日新聞 MSNニュース掲載)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/university/news/20060708ddn002040005000c.html

■「平成18年度 公立大学法人大阪府立大学 職員採用試験案内(大学卒程度)」(大阪府立大学)
http://www.osakafu-u.ac.jp/news/shoku_rec18.html

※おなじみ、大学職員.net -Blog/News-の記事で知りました。
■「大阪府立大学 職員の募集に競争率349倍!?」(大学職員.net -Blog/News-)
http://blog.university-staff.net/archives/2006/0713/0007349_1.html

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大阪府立大が、公立大学法人になって初めて、来春新規採用する事務職員「5名程度」を募集したところ、1747人から申し込みがあり、競争率約349倍の狭き門となった。これまでは府職員が派遣されていたが、法人化により、主要自治体と異なる採用試験日を設定。さらに「事務職員が企画立案の専門家として活躍できる職場」(人事担当者)というイメージが好感を呼んだとみている。

府立大では、長崎県立大が昨年、法人化により競争率が200倍になったとの情報をもとに、申込者数は約1000人と予想。ところが、先月23日の締め切りまでに、新卒者496人、既卒者1251人の応募があった。
(略)
府立大に応募した既卒者は事務員、私立大事務職員、アルバイトなどさまざま。志望動機は「大学卒業時は『氷河期』で、内定がもらえなかった厳しい経験を生かして学生支援にあたりたい」など、明確な目的意識を持った人が多いという。

府立大は「従来の公務員人気とは質が異なる。チャレンジ精神旺盛な人材を選ぶための良い機会になる」と歓迎している。
毎日新聞記事より)

なんと、競争率349倍!
超がつくほどの人気ぶりです、大阪府立大学。
その背景にあるのは、公立大学の法人化です。

そのあたりについて、ごく簡単にご説明します。

【学校教育法第2条】
学校は、国(国立大学法人法(平成15年法律第 112号)第2条第1項に規定する国立大学法人及び独立行政法人国立高等専門学校機構を含む。以下同じ。)、地方公共団体(地方独立行政法人法(平成15 年法律第118号)第68条第1項に規定する公立大学法人を含む。次項において同じ。)および私立学校法第3条に規定する学校法人(以下学校法人と称する。)のみが、これを設置することができる。

公立大学は、上記の学校教育法第2条によって定められている通り、「地方公共団体」もしくは「公立大学法人」が設置する大学です。

以前は、「公立大学法人」なんてものはありませんでしたから、公立大学と言えば100%、地方公共団体が設立した組織でした。ですのでこれまで、公立大学の業務はすべて、ローテーションで配置されてくる、その地方公共団体の職員が担当していたのです。大阪府立大学の職員は、大阪府のお役人さん達だったのですね。

ご存じの通り、地方公共団体の人事は、基本的にローテーションです。
10年間府庁で働いていた方が、大学に配属されて、さらに7年後、今度は府立の文化センターみたいなところに配置換え、みたいな世界です。
これはつまり、「大学のことを知っている人間が全然大学内にいない」ということを意味します。

私立大学や国立大学では、「大学事務職員は、経験はあるけれど、専門的な知識や技能は持っていない」という点が反省され、現在、大学職員の能力開発に関して様々な試みが行われています。
でも公立大学のスタッフは、「経験」すら、持ち合わせていなかったというわけですから、より事態は深刻だったのです。
公立大学の人事システムが抱えるこのような特殊な事情については、↓以前の記事でちょっとだけご紹介しました。

・人口358万人都市・横浜の大学
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50174417.html

こうした事情が、独立行政法人化によって変わりました。

「公立大学法人」になった大阪府立大学は、大阪府から独立した組織になりました。
初めて、「独自に」職員の採用活動を行えるようになったのです。
数年後にはローテーションでどこかに行ってしまう行政職員ではなく、悲願であった大学専属のスタッフです。彼らにかかる期待がどのくらい大きなものか、ご想像いただけるのではないでしょうか。

で、話は冒頭の報道に戻ります。

「事務職員が企画立案の専門家として活躍できる職場」(人事担当者)というイメージが好感を呼んだとみている。

府立大に応募した既卒者は事務員、私立大事務職員、アルバイトなどさまざま。志望動機は「大学卒業時は『氷河期』で、内定がもらえなかった厳しい経験を生かして学生支援にあたりたい」など、明確な目的意識を持った人が多いという。

府立大は「従来の公務員人気とは質が異なる。チャレンジ精神旺盛な人材を選ぶための良い機会になる」と歓迎している。

……などと、毎日新聞の記事には書かれています。

大学業界の発展を期待させる、前向きな記述で、いいですよね。
ぜひ、目的意識の高い方に、大阪府立大学で活躍していただきたいですね。

……って、ちょっと待ってください。

この記事だと、大阪府立大学は「企画」や「学生支援」のためのスペシャリスト候補生を採用しようとしているかのように見えますが、マイスターとしては、念のため、「本当にそうですか?」と確認しておきたいです。

大阪府立大学のwebサイトに書かれた採用情報では、↓こういった書き方がされているんですね。ちょっと気になったりして。

1.採用職種および採用予定人数

事務職員 5名程度

大学(中百舌鳥キャンパス又は羽曳野キャンパス)の事務部門において、総務、財務、学生支援、産学官連携等の大学運営業務に従事していただきます。

大阪府立大学 職員採用試験案内より。強調部分はマイスターによる)

元のリンクだと、何故かちいちゃく書かれてしまっているのですが、赤字強調部分はとっても重要です。
これってつまり、

「どういう分野に配属されるかはわからない」
「特定のスペシャリストになれる保証はない」

と言う意味に読めるんです。どこの大学の採用案内でも同じように使われている、おなじみのフレーズです。この見慣れたフレーズと、毎日新聞の記事にギャップがあるので、気になっちゃいました。

大学の業務は、上記で紹介されている総務、財務、学生支援、産学官連携だけではありません。
人事、情報システム、施設管理、広報、管財、厚生といった法人系の部門と、
教務、学務、図書館、学部事務、教育支援、入試といった教学系の部門とで、
非常にバラエティに富んだ部門を抱えています。

これらのどれ一つとっても、高度なことをやろうとすれば、それなりの専門性が必要になってくるはずです。でも、日本の多くの大学は、これを数年おきのローテーション人事でまわしているのです。

この募集要項だけ見ると、大阪府立大学も、その辺はあんまり変わらないように思えるのですが、この点、応募された皆様にはちゃんと説明されたのでしょうか。

もちろん、こうしたことがただのマイスターの取り越し苦労で、
毎日新聞の記事にあるように、本当に企画や学生支援の専門家を育成するつもりなのであれば、いいのです。

ただ、あんまり大学の募集要項からは、そういう雰囲気が出てきていないので、ちょっと心配になるのです。

それともう一点、気になることが。

募集要項を見ると、どうやらこの試験は29歳までしか受けられないようです。
「※長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、上記年齢の範囲で募集します。」と、理由が書かれていますが、中途採用、新卒採用、ともに29歳までしか募集しておりません。
こうしたところから、基本的には「大学についてはまだよく知らない」という、アマチュアの方々を採用しようとしているのだと読みとれます。

さて、こうして採用した方々を各分野の専門家として育成するとありますが、ところで誰が育成するのでしょう?

前述した通り公立大学には、十分な経験と知識を持った大学人は、これまではほとんどいませんでした。今回独自に採用される5名は最年長でもまだ20代ですから、彼らの上司達はおそらく、ローテーションでまわっている行政職員です。学内には、スペシャリストはあんまりいないのです。

マイスターが思うに、本当に専門家集団を育てたいのなら、年齢制限など設けず、積極的に外部からプロを引っ張ってくるはずです。でも、今回は、そうではないみたいです。

何が言いたいかというと、

「採用されたけれど、思っていたような仕事じゃなかった」

っていう状態にならなければいいけれど、ってことなのです。

大阪府立大学は、責任持って、最終選考に残った方々を育成して頂ければと思います。

せっかく、景気のいい報道なのに、冷や水をぶっかけるような記事で申し訳ございません。

でも、大学職員の採用に関する実態について、↓こんな記事を書いたことがあるマイスターとしては、いちおう冷静に見てしまうのです。

・架空大学 求人情報 【優秀な事務職員求ム!】
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50152317.html

大阪府立大学は、カッコだけじゃなくて、本当に専門家を育ててくれるといいなぁ。
冒頭の報道を見て、そんな風に願ってしまう、マイスターでした。

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(おまけ)
かつては、大学職員の採用情報を探すのは一苦労でした。

■「求人情報」(大学職員への道)
http://www5a.biglobe.ne.jp/~mochikin/kyujin_jokyo.html

上記は、大学職員の間でよく知られているサイトです。
世の中に出回っている大学職員採用情報を、一覧にしてくれているので、志望者にはありがたい存在です。

↓採用情報の探し方も丁寧に開設されています。

■「検索方法」(大学職員への道)
http://www5a.biglobe.ne.jp/~mochikin/kensakuhoho.html

かつて、大学職員の採用情報は、リクナビのようなサイトにはまず掲載されていませんでした。リクナビは、企業から、高額な情報掲載料を取るからです。

しかし上記の「大学職員への道」でも紹介されている通り、時代は変わってきたようです。今やリクナビやリクナビNEXT(転職情報専用サイト)でも、大学の仕事を探すことができます。

○「リクナビ」で「大学」と検索した結果
○リクナビNEXT(キーワード検索に「大学」と入れて検索してください)

便利になったものです。大学が人材獲得のためのコストを惜しまなくなってきた、ということなのか、それともリクルートが掲載料を値下げした結果なのかは、わかりません。仮に値下げしたのだとしても、そんなにお安くはないはずですから、ここに掲載されている大学は、かなり「気合いを入れている」ところなんじゃないかと思います。