山の手線車内の映像広告では、「ちょっとだけ頭を使わせる広告」が人気。任天堂、サッポロビールなどが、雑学クイズや、トリビアネタクイズなどを流しています。
クイズが出題されるとつい問題を読んでしまい、読んでしまうとつい真剣に考えてしまうという、人間の心理を使ったコンテンツですよね。「正解まであと3、2、1…」なんてカウントダウンをされてしまうと、なおさらです。まさに、映像ならではの広告制作だよなぁと思います。
あと最近は、「アタマを試す」ということが、大人向けのちょっとしたエンターテイメントになっていますよね。ニンテンドーDSなどの携帯用ゲーム機では、「脳を鍛える」といったゲームが売れていますよね。電車で流される広告の類も、「本気の学問」というよりは、「ちょっとした知能試し」というくらいの、解けなくてもあんまり悔しくない内容が多いです。
ところで、こういったタイプの広告の元祖と言えば、やはり日能研「シカクいアタマをマルくする。」シリーズでしょう。
学校関係者や受験産業の方でなくても、一度はじっくりと読んだことがあるはず。これは、広告の世界でも非常に有名な事例なのです。
■「シカクいアタマをマルくする(web版)」(日能研)
http://www.nichinoken.co.jp/sikakumaru/mondai/f_mondai_01.html
みなさんにとって、「日能研」って、どんなイメージですか?
マイスターにとって、日能研のイメージは、正直に申し上げると以前は「お受験させられる子供達が、親に行かされる受験テクニック指導塾」というものでした。
なにしろマイスターは中学まで地元の公立学校で過ごしたものでしたから、「お受験」や、そのための受験テクニックの訓練を、小学生のうちからさせるのはかわいそうだ、というイメージがあったのです。
日能研はそういった受験産業の象徴みたいに思っていました。ですから率直に言って、マイスターにとって同社の印象はあまりよくありませんでした。
それを変えたのは、「シカクいアタマをマルくする。」の広告です。
あの広告に出てくる問題は、少なくとも単純な「受験テクニック」には収まらない、もっと知的な内容を含んでいます。
知識の有無を問うだけではなくて、その知識の「活かし方」や、発想の柔軟さを問うような問題が多いのです。大人でも、解くのがちょっと楽しい問題です。「これは、工夫して考えないとダメだな」と思わされます。覚えたことをただ吐き出すのではなく、ちゃんと考えて解く…という感じでしょうか。
本当に「シカクいアタマをマルくする。(=柔軟な発想力を養う)」ための勉強をしているんだなぁ……と、少なくともあの広告を見ている限りは、だんだん思えてくるのですね。
そんなわけであの広告によっって、マイスターにとっての日能研の印象はガラリと変わりました。
実際の日能研の指導がどうかはわかりません。しかしあの広告を通じて、どのような指導を目指しているかを端的にわかりやすくアピールすることには、成功していると思います。
受験指導塾は通常、有名校への合格者数などで指導力をアピールします。でもその場合、マイスターのように「受験に勝つためのテクニックだけを教え込んでいるんじゃないか?」といった悪印象を持つ人間が出てこないとも限りません。
そこで、毎日子供達が取り組んでいる問題をそのまま広告として示して見せたのが、この日能研の作戦だというわけです。
考えてみれば、教育機関なのだから、「どんな教育をしているか」ということを伝えないと、お客さんはその機関の教育が良いのかどうか、今ひとつ想像できませんよね。
ところで、これって、大学も同じだと思いませんか。
大学が、自分達の教育力をアピールするために一番よく使う指標は、「就職力」ですよね。
それも「テレビCMを流しているような有名企業に、どのくらい人数を送り込んでいるか」というアピールの仕方がメインです。
「大学でどんな勉強をしているか」という、教育内容自体の説明は、各大学のパンフや車内広告を見ても、どうもあいまいです。
大学パンフレットには大抵、その学科の四年間のカリキュラム表が掲載されています。しかしおそらく高校生には、その授業がどんな作業で構成されているか、どのようなことをどのように学ぶのか、ほとんど想像がつかないでしょう。
また、在学生のコメントもよく載っていますけれど、
「自分の好きなことに四年間打ち込めました」とか、
「幅広い勉強ができるので、私には向いています」とか、
いずれも、説明としてはなんだか物足りません。
結局、ここの学生は、どんなことを学んでいるんだよぉ!?
ちょっと、黒板に毎日書かれている板書を見せてみて!
学生のノート、どんなことを毎日書いているの?
学期末の試験では、どんな問題が課されているの?
具体的に、何をどう勉強しているのか、具体的なイメージを掴みたい!
……といったことを、大学に行こうかと思っている受験生なら、考えるんじゃないでしょうか?
今の若者はよく、「大学で何を学ぶかを、真剣に考えないままに大学に来る」とか、「自分の将来について、あいまいなイメージしか持っていない」とか言われます。
でも、それは違うんじゃないかと、マイスターは思っています。
今の高校生は、ある意味、昔の高校生以上に、自分の将来について真剣かつ具体的に考えています。自分で具体的に様子が掴めること、具体的にイメージできることに関しては、彼らは実に細かなことまでシミュレーションしているのです。
ただ、文章で簡潔に示されただけの情報を扱うのは、少々苦手です。
カリキュラム表に書かれた科目名だけでは、何をやるのか想像できないのです。
ですから将来のことを真剣に考えていないのではなくて、「大学が用意した情報では、何もわからないから、考えようがない」というのが正しい実態なのではないかとマイスターは思います。
「実習を積んで美容師になって、人々を喜ばせる」といった専門学校的な教育や、「建築のデザイナーになる」といったものづくりを目指す若者達は、学ぶ動機や、自分の将来ビジョンを、実にはっきりと語ります。
また自然科学系や社会科学系を志望する学生が、
「地球の環境破壊を防ぐ人間になりたい」
「ナノテクノロジーを研究したい」
「福祉に貢献して、困っている人々を助けたい」
など、具体的なテーマをもとに学部学科を探そうとするのは、こういったことについては具体的なモデルがあり、自分なりのイメージができるからです。どんな勉強をしてどんなサークル活動に打ち込んだら、福祉や環境に役立てる人間になれるかということを、(例え間違っているとしても)自分なりに想像しようとしているのですね。テレビのドキュメンタリーなどでよく題材にされる上記のようなテーマは、彼らにとって、具体的なイメージを伴う「進路選びのとっかかり」の一つなんだと思います。
そう、彼らは実に真面目で、情報収集にも熱心なのです。
しかし、大学側が、曖昧模糊としたカリキュラム表くらいしか見せてくれないので、彼らも困っているんじゃないかと思うのです。
そこで、その解決策なのですが、
マイスターなら、
大学の学期末の試験問題(例)を、
そのままパンフレットに掲載します。
見せられる情報は、試験問題だけではありません。あとは例えば、
学科ごとに、
優秀な学生のノートを、そのまま公開します。
工科系の大学なら、学生が授業の中でデザインしたロボットやクルマ、建築、CG、映像、コンピュータゲームなどを、「課題」の文面と一緒に掲載します。
例えば建築なら、「○○のような敷地で、○○のようなことを行いたい。この街の問題についても十分に検討しながら、建築物を設計せよ」みたいな課題がありますよね。んで、各学生がそれについてどのような作業を行いどのような回答を出したか、という、過程と結果がありますよね。
マイスターならそれらを、学習の具体的な例として、そのまま取材してパンフに載せます。
結局、どんな勉強をしているの?
ってことを、受験生達に伝えるためです。
学期末の試験問題の一部をそのまま掲載すれば、これは大学での学びに関する、非常に具体的な情報になります。
論述でも、穴埋めでもかまいません。大学らしさを伝えるのであれば、個人的には論述試験がサンプルとして良いように思います。例えば社会科学系なら、具体的なデータを使って、説得力ある論を組み立てないと回答できない試験がありますよね。そういった、高校までとは違う問題を、そのまま受験生に突きつけるのです。遠慮して、難易度を落とす必要なんてありません。そのまま掲載しましょう。
それを見れば彼らは、
「おぉ、これが大学での学びか」
と、イメージできます。
さらに学生による模範解答を、できれば複数、合わせて掲載します。そうすれば受験生は、
「おぉ、こういった発想法を身につける勉強なのか。
自分も、こういう論を組み立てられるようになるのか。悪くないな」
と、思えるんじゃないかと、マイスターは考えるのです。
先ほども申し上げましたが、今の若者は、具体的なイメージの処理は非常に得意です。こういった具体的な情報については非常に細かいところまで見るでしょうし、またそういった情報を、大学選びに役立てようとするはずです。
行っている教育に関して、このくらい具体的な情報を公開している大学は、彼らにとって「選択肢」に入るでしょう。逆に言うと、こういったレベルで学びのイメージが掴めない大学は、自分の学びの場として、想像しづらいのでは。
(「シラバス」の掲載だけでは、不十分です。在学生すら、読んでません。具体的な試験問題文くらい、ズバリ具体的なものでなければいけません)
パンフレットやwebサイトなら、こういった情報を、ふんだんに掲載できます。
マイスターはさらに、電車の車内広告や、ファストフード店のトレー広告などでも、こういう「具体的な学びの様子」をアピールしていいと思います。問題をトレー広告に出し、回答例はネットで見られるようにするのも手でしょう。ハンバーガーを食べながら、「なんか面白そうじゃん、経済学」とか考える受験生は、いると思います。
以上、「授業で使った試験問題を、広告にしてみてはどうでしょうか?」というご提案でした。そのねらいは、「学びの姿を、具体的にイメージしてもらう」という点にあります。
世の中に、面白くない学問なんてないのです。
大学人なら、「大学での勉強は楽しかった」という経験が、おありでしょう。その楽しさは、何かの問題や課題にチャレンジするときに得られたものではありませんでしたか?
その魅力、ストレートに受験生にもぶつけてみればいいのではないかと思います。
以上、マイスターでした。
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(おまけ)
■「ソニーCPと日能研、中学受験用問題をライセンス販売」(NIKKEI NET)
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20060703AT1D290BN30062006.html
日能研の問題を、商品にプリントするなどして扱うビジネスが登場したそうです。大学の問題も、世の中で流通する何かの製品と組み合わせたら、面白いかも知れませんね。