しばらく投資教育のこととか書いている間に、高等教育を巡って色々な動きがありましたね。
というわけで、今日は↓こちらの報道についてご紹介します。
【教育関連ニュース】—————————————-
■「世界的研究所、大学に30カ所 科技会議が目標示す」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200605230402.html
■「世界水準の研究拠点を、大学支援てこ入れ案…科技会議」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20060522i501.htm?from=main5
★「総合科学技術会議(第55回)議事次第」(総合科学学術会議)
http://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihu55/haihu-si55.html
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国の経済発展につながる革新的な研究成果を大学で生み出すため、総合科学技術会議(議長・小泉首相)は、30カ所を目標に世界水準の研究拠点をつくることを決めた。23日の本会議で、能力主義の徹底や、研究者・教員の2割以上を外国人にすること、研究教育の完全英語化など、拠点の具体像が示された。
各拠点は従来の専攻にとらわれず、教授10人、研究者50人以上の規模とする。場合によっては大学外の研究所などとも協力し、分野を超えた融合型の組織をつくる。
現時点でこうした基準を満たす拠点はないが、文部科学省が詳細な基準をつくり、有望な拠点に対して10~15年間重点的に助成する。各学問分野で世界の上位20位に入ることが目標で、1大学が複数の研究拠点を持つこともありうる。 (Asahi.com記事より)
はて、この構想、どっかで聞いたことが…と思っていたら、「TOP30大学」でした。あったなぁ、こんな話。
ただ、「イノベーション創出総合戦略」と名付けられた今回の計画は、内容がより具体的です。
まず、今回は「国の経済発展につながる革新的な研究成果を大学で生み出す」という目的がはっきりしています。
そして、そのための条件として、
○能力主義の徹底
○研究者・教員の2割以上を外国人にする
○研究教育の完全英語化
○民間からの寄付金を含む外部資金の積極的獲得
○研究や教育の従事時間が十分確保される時間管理体制(エフォート管理)
○出産・育児における勤務環境の改善などによる女性研究者が活躍しやすい研究環境
○世界的な研究者の存在または魅力ある最先端研究チームと設備の存在
○10~15 年間程度の支援期間(5 年毎に評価、入れ替えの可能性を担保する仕組み)
など、研究組織のイメージがある程度具体的に提示されています。
また、産学連携志向が明確なのも特徴的で、「イノベーションを種から実へ育て上げる仕組みの強化」として、以下のような項目が示されています。
(1)産学官連携の本格化と加速
(2)地域イノベーションの強化・基礎段階から産学が連携する研究拠点(先端融合領域イノベーション創出拠点)形成の強化等
(3)切れ目のない資金供給、知の協働推進
(4)戦略重点科学技術についての施策の集中的推進
こうした条件や環境、そう簡単に実現できるものではありません。
Asahi.comの記事でも、「現時点でこうした基準を満たす拠点はない」と書かれています。
参考:「文科省、大学院選別し助成へ 研究指導型と教育型に」
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50192991.html
↑先日、「次のCOEでは、採択拠点の数をこれまでの半分に絞る」といった報道があったばかり。
資金を特定の大学に集中させ、特定分野での日本の研究レベルを世界に確たるものにするという戦略が、様々なところで具体化しつつあるようです。
ちなみに今回は、目指すレベルとして「世界トップレベルの研究拠点」の例があげられています。
【世界トップレベルの研究拠点の例】
○カーネギーメロン大学TheRoboticsInstitute
○スタンフォード大学BIO-X
○カリフォルニア工科大学CALTECH
○MITメディアラボ
○国立ローレンスバークレー研究所
○ロックフェラー大学
○ハーバードメディカルスクール
○コロンビア大学神経生物学・行動学研究センター
○テキサス大学SouthwesternMedicalCenter
……これは、本当に世界トップレベルですね。
国の競争力を引き上げるようなイノベーションを創出するという点では、まさに各分野の世界トップ機関といって、差し支えないでしょう。
日本はこれから、このレベルを目指して産官学連携のプロジェクトを進めていくのですね。
これらの機関は、現時点で既に十分イノベーティブ。
ノーベル賞級の研究者を招聘し、質・量ともに研究者の層は厚いです。多くの受託研究を進め、資金も豊富。日本が世界レベルを目指している10年の間にも、これらの機関は、より先に向かってトップを走り続けていくはずです。
追いつき、追い越すのは大変です。
本当にこうしたトップレベルの機関に肩を並べたいのであれば、研究費や研究施設の他に、もうひとつ、必要なものがあると、マイスターは思います。
それは、本気で組織を変え、成果を出すという決意です。
上記の「世界トップ校」は、すべてアメリカの大学ですよね。
アメリカの大学の、というか、アメリカという国の本当の強さは、戦略を徹底的に練る上げるところと、それをしかるべき方法でちゃんと実行するというところではないかと、マイスターは思うのです。
日本の大学関係者は、これまで、外部との競争に備えて戦略的に組織を動かすということをほとんどしてきませんでした。また、「大学改革」を謳うことはあっても、本気でそれを実行しようとする組織はほとんどありませんでした。
悪い意味で非合理的、前近代的な組織。それが、日本の大学でした。
例え政府から一時的に資金を拝領できたとしても、それを120%活かせなければ、意味がありません。死にものぐるいで成果を追い求められるか、そのために必要な改革ができるか、それが問われているのではないかと思います。
勝負はむしろ、拠点に選ばれた時から始まるのでしょう。
研究費を手にしたのに、イノベーティブな成果があげられなかったら、それはその大学の体質やシステムに欠陥があるのかも知れません。
さぁ果たして、日本から世界トップの研究拠点が生まれるのでしょうか。
楽しみです。
以上、マイスターでした。
こんにちは。たびたび拝見させていただいております。スーパーサイエンスハイスクールでも、このところ科学技術系の人材育成ということがしきりに言われるようになりました。諸外国からの視察などで話を聞くと、どこの国も国際競争力をつけるための人材育成ということで教育に力を入れていることがわかります。日本も少子高齢化が心配されていますが、それと教育政策を結びつける意識は薄いような期がしています。
危惧するのは、従来の研究費と同様に大学の格で配分され学歴社会を補強するだけに終わらないかという一点です。本当は独立の研究機関を30程作った方がいいと思いますが、大学に配分するのなら、従来の研究実績や資金配分枠にとらわれず構想の優劣のみで判断するか、旧帝大偏重にせず地方国立大や私大の枠を格段に増やすかすべきでしょう。