オマケに、大学院の学費ローン(奨学金ではなく、銀行から個人で借りている)がまだたんまり残ってます。生活、ラクではありません。いやぁ、まいったまいった。でも、大学院に進学して良かったと思っていますから、後悔はまったくありません。
また、本を買ったりセミナーなどに参加したり、科目等履修生になったりするためのお金は自分への投資ですから、給料の一定割合までは、迷わず使います。
企業は将来のために設備投資をするし、大学なら研究施設などに投資しますよね。それと同じように、自分に投資するんだという感覚です。
ところで、
「日々、勉強しています」
という言葉を使うと、どうも「図書館で本を読みあさる」とか、「新聞をよく読む」とかいった、「あまりお金を使っていない清貧な苦学生イメージ」が浮かびませんか?
でも実際には、本を買うにも、大学院の授業を受けるにも、誰かに会いに行って話を聞くのにも、すべからくお金が必要なんですよね。勉強するということは本来、「未来のために投資する」ということと、ほとんど同義なんだと思います。
逆に言うと、積極的にお金を稼ぐということは、「より大きな学びのチャンスを得られる」ということだと考えることができます。
しかーし。
これまで日本では、教育費は自分で払うものではありませんでした。親か、国が出してくれるものでした。だからなのか、実は未来のためにお金を「投資」されているにも関わらず、学び手本人は、それを実感する機会があまりなかったのではないかと思います。
もちろん、小学生のことからそんなことを意識する必要はないでしょう。でも、中学校高学年、高校生、大学生くらいになったら、ある程度はそうした認識も持っておくべきだろうと、個人的には思うのです。
(「お金の大切さ」を学ぶための方法として、「自分にかかっている教育費を知る」というのは、はじめの一歩としてけっこう良いアプローチだと思うのですよ)
ちょっと話は変わりますが、未だに我が国の教育現場では
<お金をかけること、お金を使うこと
= あまり推奨できない行為>
というだけのレベルでしか、お金について教えられていないのではとマイスターは感じています。
家庭科・生活科のような教科でも、題材として主に扱われるのは、食費や光熱費などの生活費ですよね。「こつこつためて、それをうまくやりくりする」という筋書きが、日本の学校が(というか、日本の教員が)好きなパターンです。
お金は借りてはならない。
お金はためることが大切だ。
お金は「生活に必要な分だけ」使わなければならない。
日本の学校では今でもおそらく、こういうのが望ましい考え方だとされています。
これらはもちろん正しいことでしょうが、これだけでは不足です。
もう一つ、社会にとって非常に重要な「投資」という概念が欠落してしまっているのです。
投資とは、一種の賭けです。お金をドブに捨てるかも知れない行為なんて、学校で教える行為としてふさわしくない。そういう認識が一般的なのかも知れません。でも、本来なら、「投資」はとても大事なことであるはずです。税金を使って公共事業を行うのも、海外にODAを出すのも、投資という考え方を知らないと本質が理解できません。
「いくらを投資して、そのリターンとしてどのくらいを得るか」ということを考えさせる教育が、本来は義務教育段階で必要なはず。
しかるに、日本の学校関係者や教員達は、「お金を稼ぐこと、お金を投資すること=汚いこと」という構図に少々偏りがちである気がします。
…ということを、いつも考えているので、↓こういう報道にはつい、いちいち反応しちゃうんです。
【教育関連ニュース】—————————————-
■「『お金が一番大切』高校生の3割 マネーゲーム肯定4割」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/life/update/0518/005.html
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「お金が一番大切」と考えている子どもが、中学生で26%、高校生で30%――日本銀行内に事務局を置く金融広報中央委員会が17日発表した「子どものくらしとお金に関する調査」で、そんな結果が出た。マネーゲームで稼ぐことを肯定的にみる割合も中学生の30%、高校生の41%に上る。
(略)
「お金が一番」と答えた割合は、小学生の低学年は25%で、高学年になると12%に減るが、中高で増加に転じる。「小学校時代は家庭や学校での教育が浸透していったん減るが、その後、社会での実体験などを経て変化しているのではないか」と同委員会はみる。
「お金はコツコツ働いてためるもの」との答えが中学74%、高校66%を占めた一方、「賭け事で稼ぐのは悪くない」も中学34%、高校45%に達し、お金への意識は揺れているようだ。 (上記記事より)
「今の子供達は、『お金至上主義』に毒されてしまっている!
ケシカラン!」
とでも言いたげな記事ですね…。
ところで、日本のマスメディアの間でここ数年、大流行している言葉の一つが、「マネーゲーム」でしょう。
日本の株式市場で証券を買って企業に投資するのも、中国株に手を出すのも、ヘッジファンドも、みんな区別せず、ひとくくりに「マネーゲーム」の一言で済みます。これはべんりなことばですねー。
「お金を転がして稼いでいるだけなんだから、楽なモンだ」
「『汗水垂らして』働くことに比べたら、軽蔑すべき行為だ」
「誰だってできることだ。ゲームみたいなものだ。子供がこういう行為に興味を持たないよう、教育現場でちゃんと教えてやらないといかん」
こんな意識が、この「マネーゲーム」という言葉の裏にあるのではないかと、マイスターは思います。
一体どういう行為が「マネーゲーム」なのか、そもそも「マネーゲーム」と呼んでいいような行為が世の中にあるのか、そのあたりをあまり深く考えないで、ただ「マネーゲーム」という言葉だけ使っている方って、多いように思うんです。
特に、教育関係者と、大手マスメディアの方々に。
・教育専門紙の「教育提言」で見つけた、情報産業批判
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50143311.html
↑詳しくは以前の記事で述べさせていただいたので、ここでは書きません。
ただ、ゲームのように簡単にお金を稼げる方法なんて、この世にはありません。株式投資でも不動産の転売でも、安定的にちゃんと稼ごうとすれば、大変な専門知識を身につけて、日々、人一倍勉強し続けなければなりません。
一見、自室に閉じこもってパソコンをいじっているだけのように見えたとしても、それはゲームをするように気楽でカンタンな生き方では、ないはずです。実際には努力も無しに、楽に儲けて生きていけているわけではないはずなのです。
なのに、どうも一部の業界の方は、そういう事情をすっ飛ばして、「マネーゲームは悪なり!」というレッテルを貼るのが好きみたいで、今回のAsahi.comにもそんな香りを感じちゃったのです。
■「子どものくらしとお金に関する調査(平成17年)」(日本銀行 金融広報中央委員会)
http://www.shiruporuto.jp/consumer/research3/2005/05enquet.html
Asahi.comの記事で紹介されているのは、↑この調査結果です。調査結果のレポートが上記から閲覧できるのですが、そもそも、このレポートにはただの一度も、「マネーゲーム」なんて言葉は登場しないのですよ。
じゃあ、Asahi.comが、いったいどのデータをもって「マネーゲーム」批判を繰り広げているかというと、どうやら↓この質問項目からのようなんですね。
【質問】
「お金を利用してうまくかせげるならそれにこしたことはない」【回答】
□そう思う
□そう思わない
□わからない
□無回答
(中学生と高校生に対して行われた質問項目)
マイスターの感想。
こんなあいまいな質問で何がわかる。
…うーん、「お金を利用して稼ぐ」って言われても……中学生がこの一文だけでどういう業務を想像できるのでしょうか。なんだか、妙にあいまいで、焦点のぼけた質問だと思うのですが…。
ちなみに今回の調査では、「銀行は預金を企業に貸し出しているか否か」という質問があるのですが(答えはもちろんYES)、実は高校生の40.5%が正答できていなかったりします。
「企業は株式や債券を発行して資金を調達するか否か」という質問では、高校生の43.5%が、「いいえ」または「わからない」と回答しています。
これっておそらく、投資という行為について、根本的に何も知らない状態なんじゃないかと思うのですが……皆様はいかが思われますか? これも、学校で「投資」という行為を意図的に教えずにいたからじゃないかと、マイスターは思うのです。
んで、この状況で、「お金を利用してうまくかせげるならそれにこしたことはない」なんていうあいまいな質問がどのくらい意味を持つのかあやしいものだと、皆様は思いませんか?
ちなみに銀行だって、お金の貸し付けで儲けている機関でしょう。証券会社だって、お金を利用して稼いでいますでしょう。お金自体を扱う事業すべてを「マネーゲーム」と呼ぶなら、銀行業も証券会社も本質はマネーゲームです。でも、Asahi.comはそういうことを深く考えもせず断りもせず、ただただ恣意的に「マネーゲーム肯定4割」なんていうなタイトルを記事に付けて配信しているので、ちょっとどうかなぁとマイスターなんかは思うのですね。
今回は、「お金を利用してうまくかせげるならそれにこしたことはない」という質問項目が、社会派(?)な朝日記者さんの正義のアンテナにビビッとひっかかってしまい(笑)、「マネーゲームの悪影響、許すまじ!」というニュアンスの内容に演出されてしまったんじゃないかと、個人的には推測します。
タイトルの「『お金が一番大切』高校生の3割」という部分にも、記者さんのそういうストーリー作りの意図を感じます。
実際には、(Asahi.comの記事では無視されているのですが)「お金よりも大事なものがある?」という質問について「そう思わない」と回答した回答者の割合は、中学生で6.5%、高校生ではたったの5.1%なんですよね。中学生で79.1%、高校生で77.9%が、お金よりも大事なものがあると思うと回答しているのです。
Asahi.comも、ウソを書いているわけではないけれど、なんだかちょっとなぁ……とマイスターは感じました。
以上、長々と書いてしまいましたが、結局のところ何を申し上げたかったかというと、
「学校で、生徒達に『投資』のことをもっと深く考えさせた方がいい」
ということなんです。
日本では、中高生はおろか、私達成人の間でも、「投資」という行為について誤解を持ったまま暮らしている方が多いように思います。
その結果が、上記の調査結果と、Asahi.comの記事ではないでしょうか。
お金を扱って生活することは、かなり高度な知識を要求する行為です。
それを、「マネーゲームだ」の一言で済ませてしまうような社会は、やっぱりどうかとマイスターは思うのです。
投資という行為は、お金を失うリスクとセットですから、先生が学校で教えるのに躊躇するのもわかります。
でも、投資というのは、そもそもリスクマネジメントのことですからね。リスクとのつきあい方をちゃんと教えておかないことの方がはるかに恐ろしいことだと、マイスターなどは考えます。
「リスクがあるから、お金はとにかく投資しないようにしよう」
ではなく、
「どうやったらよりリスクを減らせるか、考えてみよう」
という発想。これって、大切な教育ですよね。そんな大切なことを、今まで学校では教えてこなかったわけで、これは早急になんとかした方がいいと思います。
昨今、産業界を中心に、子供の金融教育の必要性を訴える方が多い理由が、よくわかります。
とまぁ、まだまだ色々な課題や問題はありますが、日本の子供達に、正しくお金の扱い方(投資の教育を含む)を教えるためにも、
とりあえず「マネーゲーム」なんていう言葉を安易に使うことは、やめにしませんか?
と思うマイスターなのでした。