不祥事を起こしたときの謝りかた(4):最近の大学の実例から見る、理想的な対応法、駄目な対応法

マイスターです。

不祥事対応は社会への説明責任を果たすために重要、
とは言え、不祥事のことばっかり書いていると、正直ちょっと気が滅入ってくるのも事実だったりします。

うーん、もっとポジティブなこと書きたいです…。

あぁでもやっぱり、これはこれで、コミュニケーションだからおざなりにできないのですよね。

思えば、広報とか宣伝、広告の部門というのは、就職活動をする新卒学生にとっても人気の部署なのではないかと思います。
単なる事務職や、生産、流通の部門と比べて華やかで、クリエイティブなイメージがあるからでしょうか。
(例:いつのまにか常務に上りつめている島○作。宣伝部門の出身という設定)

でも実際には、謝罪のための広報活動もあるわけで、すごく泥臭い仕事も多いわけです。
もちろん、かつてのようにただ平謝りするだけが仕事ではなく、謝罪にしてもある種の戦略や理論だってあるわけですが、
それでも、やっていて楽しくない、少しもクリエイティブではないと思える仕事は山ほどあります。

でもそういう場合こそ、広報の腕の見せ所でありますから、やっぱりおざなりにできないのですよね。

と、スタートに戻ったところで、はりきって不祥事ニュースをご紹介しましょうか!(しかし、嫌なはりきり方ですね…)

今日はいよいよ、実際に、不祥事に対する大学の対応を見てみましょう。

大学職員.net -Blog/News-」のアーカイブを見れば、最近の大学の不祥事情報は簡単に調べられます。
マイスターはそれを元に、各大学が自分達の公式webサイトで不祥事についてどのような情報公開を行っているかを見てみました。

と、その前に。
こういうリリースを出す時に大切なことはいくつかあります。

技術的なことや、色々と細かいお約束などはもちろんありますが、なにより最も大切なのは、社会に対し誠意を持ってコミュニケーションしようとしているかどうかです。

学生が起こした事件と教職員が起こした事件では、大学が出せるリリースも当然違ってきますし、事件の内容によっても対応は大きく異なるでしょう。
でも、どんなケースに置いても、誠意があるかどうかというのは注意してみれば大体わかるものです。

マイスターの私見を述べますと、例えば以下のような部分について適切に対処されているかどうかは、大学の姿勢を測るひとつのポイントになるのではないでしょうか。

・誰でもすぐアクセスできるところに、情報が公開されている

これはもっとも大事です。
特に、マスメディアで報道されたような事件ならなおさらです。
社会の多くの皆様が、事件の概要について、あるいは大学の対応について知るために、その大学のwebサイトを訪ねてくるわけです。
その時トップページに、それとわかるリンクなどが張られていなかったら、どうでしょうか? なんだか、不親切だと思いませんか?

不祥事の情報というのは普通、なるべくあからさまに公開せず、わかりにくいところに隠しておきたいものですが、その結果、

「わざわざトップページリンクなんて用意しなくても、ニュースのページで検索をかければ一応は出てくるんだから、いいじゃないか。」

「これは○○学部の教員が起こした事件で、その学部のホームページには情報が載っているんだから、わざわざ全学webサイトのトップページに掲載する必要はないだろう。本当にその事件に関心がある人なら、自分で調べてたどり着くはずだ」

…といった意識がつい幅をきかせしてしまい、気づけば情報は、まずすぐには見つけられない場所に…なんてことになってはいないでしょうか。

「情報は確かに公開した」という事実をつくることで、関係者はひと安心かもしれませんが、でもこれでは誰に対して向けられた情報なのかわかりませんよね。
専門の研究者に対してではなく、広く「社会」に対して伝えるべき情報なら、やはり大学のトップページにお知らせを出すことに意味があるのです。

情報を公開しないのはマズイけど、なるべく読んで欲しくない…という意識を持っている組織も多いことでしょうが、そうした姿勢は、誰が見てもけっこうわかってしまうものですよ。

・事件の概要や経緯がまとめられており、予備知識がなくても、リリースを見ただけでおおよそ何が起きたかがわかるように書いてある

これも、大切です。
特にメディアが派手に報道した事件などでは、
「どうせみなさん、もう知ってるんでしょう?」
と言わんばかりの姿勢で、事件に対する大学のコメントだけが掲載されているケースが目立ちます。

でもこれは、なるべく社会と距離を置こうとする意識の表れと思われてしまいます。
そうではなく、誠意を持って詳細に説明する姿勢を見せることが大切です。

その意味で、残念ながら悪い事例としてご紹介させていただくのは、大阪大学です。

■大阪大学
http://www.osaka-u.ac.jp/

大阪大学については、最近二つの事件が報道されました。
ホストクラブを経営していた学生が恐喝容疑で逮捕された事件と、
学生が論文データを捏造したとして、監督責任を問われた2人の教授が停職になった事件です。

このうち前者については大学がどうこういう問題ではないかも知れませんが、
後者の報道に関しては、阪大には状況を社会に説明する責任があると思います。
ところが、「大学最新トピックス」に掲載されているのは、↓これだけ。

■「総長見解(PDF)」(大阪大学)
http://www.osaka-u.ac.jp/jp/saishin/kenkai0215.pdf

総長の見解を公開することは無意味ではありません…が、
上記のページ自体には、一般社会の方にとって有用な価値が何も含まれていないことに、皆様は気づかれたでしょうか。

これって、キャンパスの掲示板に貼られた学生向けのプリントをPDFにしただけのものですよね。大学の関係者でなくとも一目瞭然です。

事件についての大学の調査結果が書かれているわけでもなければ、今後の対策が説明されているわけでもない。学外の私達がこのプリントを見ることに、いったいどれほどの意味があると言うのでしょうか。
一見、毅然と対応する姿勢を見せているように思える文章ですが、事件が明るみになった2005年5月以降、具体的なことは何も説明されていないままのわけですから、「何もしていないんだな」と思われても仕方がないところです。

大阪大学が事件について公開している情報は、これだけです。
いや、もしかしたらどこかにあるのかも知れませんが、少なくともマイスターには見つけられませんでした。

■「職員の懲戒処分等について」(国立大学法人鹿児島大学)
http://www.kagoshima-u.ac.jp/topics/html/topic444.html

上記は鹿児島大学の懲戒処分発表ですが、こちらは経緯についての報告が丁寧にまとめられていると思いました。学長のコメントも、こういう補完的な形で使われていると好感を覚えます。

・事件の発生を受けて、誰がどのような対策を講じたかが書いてある

企業の場合、不祥事の情報を発表する際には必ず、問題を払拭するための具体的なアクションプランが併記されます。
問題を起こしておいて、それをまるで他人事のようにとらえているだけなら、株主も消費者も納得しませんからね。

逆に、不祥事を起こしたとしても、速やかに自らそれを公表し、考えつく最善の方法で対策を講じている姿を伝えれば、株主は評価します。実際、問題を起こしたのに、その対策を速やかにやった結果、株価が上がったなんてこともたまに見られます。
それは、起きた問題そのものより、その対応過程で

「このように問題対応を素早く適切に行える経営陣と社員達なら、今後は会社を成長させるはずだ」
「このように問題を隠蔽しない、風通しの良い会社であるなら、今後必要な経営改革もきっと実現させるだろう」

という、会社の組織と人間とが評価された結果なのでしょう。

大学でも同じではないでしょうか。
大学が得るのは、株主からの評価ではなく、社会からの信頼です。

「あの大学の人間は、問題が起きてもやるべき対策を素早く行える人達ばかりだ」

という信頼は、研究費の獲得など、様々なところにも響いてきます。

また何より、大学の信用というのは長い伝統と、その上に少しずつ積み上げられていく成果とで構成されていくもの。
問題が起きるたび、対応が好意的に評価されるのと、社会に背を向けたおざなりな対応としか評価されないのとでは、そのうち覆しがたい差が付いてくるのではないかとマイスターは思います。

・事件の対処をする所轄部署または責任者の連絡先が記されている

できているようで、割とできていないのが、これ。

もともと大学は、どんな文書も学長名、もしくは大学名のみで公開することが多い組織だとマイスターは感じます。
問い合わせ先も、書いてないことが多いです。
少なくとも、どんな役職であれ事務職員の名前でリリースが出されることはまれです。

企業だと、プレスリリース文というのは普通

「○○株式会社(社長:○○)は、このたび…」

という書き出しで始まり、

「担当部署 ○○課 担当○○ 連絡先…」

で終わります。
※参考「プレスリリース」(コクヨ株式会社)
http://www.kokuyo.co.jp/press/index.php
適当なリリース文を開いてみてください。最後に、担当部署の連絡先やお問合せ先が必ず掲載されています

お問い合わせ先が書かれていないプレスリリースに意味はないから、というのが、担当部署や連絡先を最後に必ず明記する理由です。

プレスリリースというのは、詳しく知って欲しいこと、聞いて欲しいことを書くものです。不祥事の場合も、その点は変わりません。
上述したように、企業の場合、不祥事発表は、何らかの「対策」とセットです。不祥事で不利益を被った方々には、直接連絡していただいて、企業の方で直に対応をしてさしあげたいのです。それが、企業への不信感を最小限にする方法ですからね。
だから、問題が起きた場合のリリース文にも、お問い合わせ窓口の連絡先を掲載するというわけです。

さて、大学はどうでしょうか。
企業と比べるとやはり、「なるべくならお問い合わせをしないで欲しい」という姿勢が目立つように思われます。
本来なら、不祥事の対応は、ステークホルダーに連絡をしていただくところから始まるのですが、大学には「リリースを出せば終わり」と思っているところが少なくないようです。この勘違いは、大学にとっても、社会にとっても不幸なことだと言えましょう。

残念ながら、大学が出している不祥事に関するリリースで、連絡先まで書かれたものはあまり見かけませんでした。

以上、マイスターが思う、不祥事対応のポイントでした。

とことで、大阪大学と並んで、最近良くない形で名前を聞いてしまうことも多い京都大学はどうだったのでしょうか。

■「京都大学学生部職員の懲戒処分等」(京都大学)
http://www.kyoto-u.ac.jp/notice/05_news/060130_2.htm
■「本学の学生による事件について (2006年1月30日付)」(京都大学)
http://www.kyoto-u.ac.jp/notice/05_notice/ippan/060130_1.htm

職員の懲戒処分については、経緯が簡潔に掲載されていますが、ちょっと物足りないようにも感じますね。
国立大学法人ですから、この事件で発注されたパソコンなどには、税金が費やされていたはずです。もし事件が発覚しなければ、大変な問題だったのでは。
どうしてこういう事態を許してしまったのか、何か対策を講じたのか、一言でも説明があった方が、リリース文としてはより良かったんじゃないかと思います。

学生の事件についてのリリースは…これだけ見ると一体どんな事件なのか全然わからないくらい、事実記載のない文章ですね。
実は京大アメフト部員達による集団強姦事件に対応するリリースなのですが、それすらも不明です。時が経てば、このリリースはあっという間に意味をなさなくなるでしょう。

あと、細かい話かも知れませんが、やっぱり発信者名が「京都大学」だけですね。アノニマスです。この文章は誰がどういう責任で書いたのでしょう?
緊急研究科長部会を開催するというのであれば、その委員長にあたる方の名前を書けばいいのにと思います。誰も責任をとらない、責任者を作らない風土は、こういうところに、おそろしいほど素直に現れてしまいます。

ただ、京大の名誉のために一言添えておきますと、これは何も京大だけにあてはまることではなく、日本の大学業界全体に見られる習慣なのだろうと思います。多くの大学が、これまでずっとこういう風に対応してきたのでしょう。マイスター個人としては、こういうのは、残しておくべき習慣だとは思いません。
みなさまも、お気を付けください。

そろそろ長くなってきましたので、この辺にしたいと思いますが、
最後に一つ、よくできているなと思った事例をご紹介して終わりにします。

「採点簿の盗難について」(札幌学院大学)
http://www.sgu.ac.jp/sec/html/topics06.html

札幌学院大学の事例です。
大学トップページからも、非常にわかりやすい形でリンクが張られています。
今回ご紹介した、

・誰でもすぐアクセスできるところに、情報が公開されている
・事件の概要や経緯がまとめられており、予備知識がなくても、リリースを見ただけでおおよそ何が起きたかがわかるように書いてある
・事件の発生を受けて、誰がどのような対策を講じたかが書いてある
・事件の対処をする所轄部署または責任者の連絡先が記されている

の4点がすべて反映されていることに、皆様はすぐお気づきになったのではないかと思います。

内容が個人情報の漏洩であるだけに、関係者に対して具体的な経緯や対応法を提示する形になったという面はあるでしょうが、それを差し引いても、模範的な書かれ方だと思います。

以上、4回に渡って、大学の不祥事対応について書かせて頂きました。

不祥事は、どんな組織でも、起きる時は起きてしまうもの。
起きてしまったことは仕方がありませんが、でも、その先どうするかは別です。

被害を受けた方のために、できることをどれだけやり尽くすか、
二度と同じことを起こさないようにするにはどうするか。

関係者に対し、また社会に対して、誠意を持って対応する姿勢が見えるかどうか。
そこに、組織の基礎体力と、精神力が現れると思います。

社会からの信頼に応えるためにも、ぜひ、大学には強い組織であってほしいと思います。

以上、マイスターでした。

2 件のコメント

  • 初めまして。私も某大学で広報職員として勤めていました。大学側の姿勢、本当に大事な事かと思います。残念ながら、私が勤めていた大学はあまり良い体制ではなく、社会的に見ても問題の多い所だったので、マイスターさんのような方のいる大学で働いてみたかったと思います。大学生き残りで色々大変だと思いますが、ブログにお仕事頑張って下さい。楽しみにしています。

  • 元国家公務員の集まりだから改革の意味意義がわからんのだろうな・・と思いつつ現役の非常勤を続けています。
    懲戒処分の規定は就業規則にあっても飾りのようなもの。遅刻が多くても注意される訳じゃないし職員はパラダイス。ハンコで出勤確認ですものね・・。モチベーションは運営費交付金の下げ率より低い。
    こういうHPどど~~んと広まって欲しい。
    悪いことしたら処分される。謝る・・社会に出る学生を育て指導する場なのですから手本に成って欲しいですよね。。