「良い」大学webサイトって?

企業webサイトの企画と制作を仕事にしていたマイスターです。

ですので、(元)プロのはしくれとして、webサイトを見る目は厳しめだと自分では思っています。

ただ、

メディアにのせて提供されるコンテンツに、「絶対の正解」なんてないんですよね。
だから、厳しい見方をするといっても、それは

「こういうwebサイトが良いサイトなんだ!
 だから、みんな、これを目指すべきなんだ!」

といった「正しさ」を求めるという意味ではないんです。
むしろそういう風に、メディアに絶対の正解や、正しいルールを求めるのは避けたいなと考えています。

その組織のビジョンや、そのときの目的にぴったり合ったコンテンツであれば、それで良いんじゃないか、と思います。
一定のカタにはめる必要なんてありません。何でもアリです。

そういう考えを持っているので、webサイトに、何でもかんでもルールや「正しさ」を持ち込んで、それを唯一絶対の基準にしようとする動きには、危惧を覚えます。

サイトのプロデュースをしていた時は、マイスターも、

マーケティングデータやら、
アクセス解析の結果やら、
アクセシビリティ評価やら、
その他、公的な調査結果やら、様々な客観的指標を用いていました。

また、マイスターが通っていた大学院は政策とメディアに関するプロフェッショナル・スクール(を、自称している学校)でしたので、プレゼンなどがあるたびに、そこで学んだ知識も総動員させていました。

こうした知識やデータを活用することで、何が可能になるのでしょうか。
例えば、最低限守るべきことをきちんと確保することはできます。
企画のコンセプトを明快にできます。プロジェクト全体に、一貫した説得力を持たせることもできます。結果として、企画を通しやすくできます。
それはそれで、非常に大切です。

でも、データは所詮データ。
素晴らしいwebサイトができることを、保証するものではありません。

客観的なデータから得られるものの大切さは重々承知した上で、
今回、敢えて皆さんにお伝えしたいのは、

客観データや、外部の決めたルールにがんじがらめになって、
「何を伝えたいのかわからないwebサイト」を作っていませんか?

ってことなんです。

そんなことを書こうと思ったのは、↓この記事を読んだからです。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「Webサイトに大学の将来を託す
  受験生確保を狙ってサイトをリニューアルする大学が増加」(日経BP)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20060215/229474/
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この記事に書いてあることは、いずれも、非常に大切なことです。

大学サイトに不可欠な要件として、

「情報の豊富さ」
「情報の見つけやすさ」
「検索エンジンに対する配慮」

の三つが上げられていますが、まさにこの通り!です。
「Webガバナンスが必要」という点にも、深く頷けます。
間違ったことは書かれていません。

詳しく書いたら本ブログの記事5日分くらい書けてしまいそうなくらい、マイスターも以前、仕事でよく意識していたことばかりです。

ただ、大学業界の皆様には、

この三点を備えているからといって、それが必ずしも「良い」大学webサイトになっているとは限らない

ということを、知って欲しいと思います。

そもそも、良いサイト、って、どんなサイトでしょうか?

(「正しいサイト」じゃありません。良いサイト、素晴らしいサイト、です。)

人によって、良いサイトの定義は異なると思います。

マイスターなら、

「そのサイトを訪れることで、その大学が大好きになる。
 その大学のことをもっともっと知りたくなる。
 サイトの中をまわっている間に、どんどんその大学のことに詳しくなって、
 気づけば、ファンになっている。」

という、そんな体験を実現してくれるサイトが、良い大学webサイトだと考えます。

大学の財務データを提供するのも、
シラバスや研究者プロフィールが見られるようにするのも、
大学生活のビジュアルを見せるのも、
入試の詳細データを速報で配信するのも、
究極的にはすべて、上記の目的を達成するためにすることだと思います。

でも、上記はマイスターの意見。
別にこれが絶対の正解ではないのですから、もっと色々な考え方があっていいと思います。

訪れたユーザーに不便を感じさせない、ということが良いサイトの条件だと考える方もいるでしょう。
美しいデザインで見た者を感心させる、ということを良いサイトの条件とする方も、いるかもしれません。

大事なのは、

「こういうサイトが、本学が考える、良いwebサイトなのだ」

というビジョンを、自分達で決めること。
そしてそれを、妥協せずきちんと明確に表現することです。

「自分達はこういう価値を、サイトで提供したかったのだ」

という想いが明確に伝わるサイトができたなら、それは多分、良いサイトです。

今回ご紹介した日経BPの記事は、

「情報の豊富さ」「情報の見つけやすさ」「検索エンジンに対する配慮」

ということを、大学サイトに不可欠な要件として挙げているのですが、これらは別に、良いサイトの条件ではないのです。
いずれも大切なことではありますが、これらのポイントを高めることを、サイト制作の中心に据えないでいただきたいなぁと、マイスターは思います。
この3つが揃っていたからといって、それで何か特別な価値が生まれるわけではないのですから。

記事中で紹介されている大学のサイトについても、同じことが言えます。

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日経BPコンサルティング調べ
<大学サイトの「使い勝手」を横断的に評価> 使いやすさのトップに輝いたのは、中央大学

■中央大学
http://www.chuo-u.ac.jp/chuo-u/index_j.html
■大阪教育大学
http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/
■神戸市外国語大学
http://www.kobe-cufs.ac.jp/
■東海大学
http://www.u-tokai.ac.jp/annai/index.html
■大阪外国語大学
http://www.osaka-gaidai.ac.jp/
■金沢星陵大学
http://www.seiryo-u.ac.jp/index.html
■明治学院大学
http://www.meijigakuin.ac.jp/
■工学院大学
http://www.kogakuin.ac.jp/
■多摩大学
http://www.tama.ac.jp/index.html
■奈良大学
http://www.nara-u.ac.jp/
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「最もサイトが使いやすい大学」として上記の10校が紹介されていますが、これはあくまでも、「使いやすい」サイト。

・ユーザビリティ調査の結果、
・今回の採点基準で
・ポイントが高かった大学サイト

という、ただそれだけを証明しているに過ぎないのです。
使いやすい(情報が見つけやすい)サイトであるということは言えても、「良いサイト」であるとは限りません。

マイスターは、上記の10大学のサイトはどれもざっと見ましたが、
正直言って、全然、魅力を感じないサイトも混じっているように感じます。

いくら情報を探しやすくても、誰のために、何のための情報を公開しているのか、よくわからないサイトもあります。

「受験生の確保を目的に、Webサイトの大幅なリニューアルを実施する大学が相次いでいる。」

「静岡大学情報学部が2005年度の新入生を対象に実施した調査では、パンフレットや受験雑誌、オープンキャンパスといった手段で大学の情報を入手していた学生がそれぞれ3割程度だったのに対して、Webサイトから情報を入手していた学生は8割弱に達していたという。」

と記事にはありますが、

果たして本当に、受験生がこのサイトを見て、この大学のファンになるのかな?

と疑問を感じるサイトも、上記の10校の中にはあると思います。
(もちろん、訪れた人をワクワクさせてくれる素晴らしいサイトもありました)

マイスターは普段、様々な大学のwebサイトを見てまわっておりますが、魅力を感じさせてくれない大学サイトって、実はかなり多いように思います。

大学で過ごす時間は、かけがえのないものです。
どんな企業の製品よりも、魅力的な価値を、大学は提供していると、マイスターは思います。

でも、そういった大学の素晴らしさを伝える大学サイトは、そう多くありません。
もったいないです。
情報の整理に重点を置きすぎて、もっと重要な何かを見過ごしているような感があります。

っていうか、そもそも大学のwebサイトに掲載されている情報って、実はそんなに多くないんじゃないでしょうか。

BtoCのビジネスをしている企業なら、普通に、数百から数万点に及ぶ製品情報をサイトで公開しています。
(大きなメーカーなら、さらにもう一桁、上になります)

製品それぞれに関する情報量も、最近はかなり充実しています。
各製品情報を、リンクでつないだり、様々な工夫が凝らされています。
そのまま、ECサイトの関連商品ページに直接誘導されたりもします。
また、本業に関連したコラムが連載されていたり、健康相談のコーナーがあったり、勉強になるお役立ちコンテンツが蓄積されていたりします。
写真の他、動画も含めたビジュアル情報も豊富です。

それに比べれば、大学のシラバスや研究者プロフィールなんて、実はそんなに大した情報量ではないのですね。

大学は、よく「知の拠点」であると言われますが、webサイトのことだけで見れば、実は企業の方が質的にも量的にも、大学上を行っているように思います。
(大企業だと、一事業部門だけで、一つの大学に匹敵する情報量のサイトを運営したりしています…)

企業のサイトを見ていると、
大学が持っている情報をもっとwebサイトで公開した方がいい、と思いますし、
また大学のサイトは、もっともっと魅力あふれたものにできる、とも思います。
(だって、企業のサイトで、効率的な情報ナビゲーションと、魅力あるデザインの両立が、ちゃんと実現できているんですから)

おっと、うだうだと書いているうちに、また長くなってきました。

大学のwebサイトについては、書きたいことがものすごくたくさんあるのですが、今日はこの辺にいたします。

以上、マイスターでした。