プロデューサーのお仕事(4):「ちょっとしたクイズ」の回答

マイスターです。

昨日、↓このようなクイズをご紹介しました。

・プロデューサーのお仕事(3):プロデューサーの役割がわかる、ちょっとしたクイズ
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50146779.html

お待たせしました!

今日の記事は、このクイズの回答編です!

(※ですので、昨日の記事を読まれていない方は、まず、上記のリンクから問題をご覧ください)

皆様は、どのような解決法を思い浮かべたでしょうか?

以下、よくある回答例を挙げていきましょう。

●ATMの機械に、「千円単位でしかご利用いただけません」という貼り紙をする。

これは、一番マズイ対応法です。
銀行側としては、一応「対応した」という気になるかも知れませんが、根本的な解決にはなっていません。
貼り紙に気づかないお客様がATMの操作に混乱して、窓口に文句を言いに来た。そのときに「いやぁ、すみません、貼り紙に書いてあったんですけどねぇ。気づきませんでしたかぁ?」なんて…。

こんな対応されたら、自分がお客さんの立場なら、言い訳すんなー!と怒り出すことでしょう。
でも、実のところ、こういう貼り紙って、よく見かけますよね。
おっと、銀行のことを笑ってはいられませんよ。
大学キャンパスの中にも、こういう対応があふれている気がします。

●引き落とし画面の中に、「千円単位でしかご利用いただけません」というメッセージを表示させる。

これは、操作画面の中にタイムリーに注意が出てくる分、最初の案よりずっと親切です。
でも、発想自体は、あんまり変わりませんね。気づかない方がおられるかもしれませんし、入力を間違ってしまったら、最初からやり直しさせられるのも同じです。
解決法としては、40点、というところでしょうか。

●「このATMでは、千円単位でしかお引き出しいただけません」というエラーメッセージ画面の後、最初の画面まで戻さないで、入力画面に戻す。

これは、より親切な案です。
エラーが起きた時、最初っから操作をやり直させるから、お客様は大きな負担を感じるのです。
入力を間違ったとしても、金額入力画面からやり直せるのなら、最低限の労力で済みます。
これは、60点くらいの解決法でしょう。

●引き落とし画面の「円」のボタンを、「千円」にする。

ちょっとアタマを使ったのが、この解決法。
千円単位でしか引き出せないのに、画面上、引き出せるように見えるからいけないんだ!
…ということで、文字通り、「○千円」で指定していただくようにするのですね。
1万円をおろす場合は、10千円と指定する。
うん、これなら、どう間違えても、当初のようなエラー画面は出てきません。
80点を差し上げられる回答だと思います。

…と、ここまでが、よくある回答です。

表示を親切にして、画面遷移を工夫して、あれこれと試してみました。
そして、限りなく、「問題がないと思われる結果」に近づきました。

60~80点レベルの回答を得られれば、実社会では十分、仕事になると思います。

ただし、もしあなたが「プロデューサー」であるなら、ここまでご紹介した回答例に甘んじず、その先の解決法をぜひ、提案して頂きたいと思います。

それは、

●1円単位でお金を引き出せるようにする。

…という、回答です。
これが、実は、100点の発想です。

世の中、そうそう、唯一絶対の正解というのはないものですよね。
前例のない、その都度その都度の状況下において、さぁ、どんな回答を出そうとするか。
それがその人の、プロデューサーとしての姿勢になります。

間違いなく言えることは、
「お客様にとって、使い手にとって、どんな対応がベストか」
という判断基準こそ、プロデューサーが最も重んじるべきものなんだということです。

これを見失わない限り、どんな状況においてもプロデューサーの行動は説得力を持ち続けます。逆にこれを軽んじると、途端にプロジェクトは求心力を失います。

マイスターは、クイズの最初で
「あなたは、ある銀行に勤めています」と書きました。

この時点で、
「ATM自体に手を付ける」
という選択肢を発想の外においてしまった方も、多かったのではないでしょうか。

しかし、どう考えても、お客様にとってベストな回答は、これであるはずです。
組織で働いている私達は、普段、無意識のうちにこうした「組織内の発想」にとらわれています。
今、こうして回答をご紹介していても、

「ふん、なんだ、そんなの口だけならいくらでも言える。
 とんちじゃないんだし、非現実的な回答はズルイ。」

と、感じておられる向きも、少なからずいらっしゃることでしょう。

でも、これを実際に押し通すのが、プロデューサーなのです。

「お客様の利便性を考えると、ATMの動作を根本から改善させるしかない。
では、どういうスケジュールでその作業を進めよう?
どういうところからスタッフを集めようかな?」

と、ゴールから発想するのです。
成果を上げてきた超一流のプロデューサーほど、「作業的に難しいだろう」とか、「自分たちにとって、もっとやりやすい方法がある」といったことは、後回しにします。
組織の都合、自分たちの都合より、お客様の都合を上に設定するのです。
(こうして書くとなんだか当たり前みたいですが、でも、これはなかなか大変なことです)

・プロデューサーというお仕事(1):プロデューサーは、常に成果の達成を優先する
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50145260.html

↑上記の記事でマイスターは、プロデューサーが、常に成果を達成させることを目的としていることを申し上げました。
また、

・プロデューサーというお仕事(2):客観的な視点を持ちながら、当事者として決断する
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50145287.html

↑こちらの記事では、プロデューサーの仕事にとって、現場の経験や発想が必ずしも役に立たないこと、むしろ邪魔になることをご紹介しました。

ATMの画面遷移や表示をあれこれと工夫するのは、現場の人間的な発想だと言えましょう。
全国のATMを改善する苦労やコストを配慮して、その場でできる範囲内で、最善の結果を出そうとしたのですね。
それはもちろん悪いことではないのですが、そこから生み出された解決方法は、80点止まりです。

現場に通じていればいるほど、まさかATMを全部改善させるなんて案は、提案できないものです。
良くも悪くも、普段から組織の論理の範囲内でしか仕事をする機会がありませんから、仕方がないと言えばそれまでです。
ただ、「提案できない」ならまだいいのですが、これは「発想できない」や「思い浮かばない」、果ては「こうした発想を認められない」という状態と紙一重ですから、気を付けねばなりません。
現場の方こそ、ぜひ、プロデューサーの視点を頭の片隅に同居させていただきたいなと思います。

あなたは、現場のベテランスタッフに囲まれながら、
ひとり、「100点」の答えを提案することができますか?

そこが、おそらく、プロデューサーとしての第一歩です。

ここまで読んでいただいてなんとなく想像がつくと思いますが、プロデューサーであろうとすればするほど、その組織でずっと育ってきた、現場一本でやってきたスタッフの方々とは、対立することが多くなるはずです。

長くなってきましたので、この続きは、明日、書きます。

そろそろ、プロデューサーについての記事、まとめないといけませんね。
明日の記事…でまとめられるかな?

以上、マイスターでした。
※メールやコメントで、回答をお寄せくださった皆様、ありがとうございました!

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(おまけ)

実と言うと今回のクイズは、ベテランプロデューサーが講師を務めた、あるプロデューサー養成講座の中で取り上げられたものなのです。

そのときの講座の参加者は、印刷業界で働く、まさに現場たたき上げのベテランの皆様でした。
100点の回答を出した方は、一人もいませんでした。

マイスター(当時はまだ学生でした)は、その講座の企画構成にちょこっとだけ関わらせていただいてました。
で、講師が会場でぽんと出したこのクイズに、自分も、80点止まりの答えしか出せなかったのです。

100点の回答を聞いた時の衝撃は、忘れられません。
小手先のアイディアに腐心して、最も肝心な発想が抜けていた自分を恥じました。

それ以来、このクイズの話は、プロデューサーとしての自分の原点になっています。

3 件のコメント

  • こんにちは。
    公立小学校で教頭をしている大山虎竜です。
    いや、満点の回答、やられました。
    そうですね。組織の中にドップリつかっていると
    あれども見えず状態になります。
    学校づくりもそうです。教師の都合で学校づくりをしては
    いけませんね。
    子どもが主人公になれる学校づくりが大切ですね。
    教頭は、プロデューサーの役割がありますね。
    これからも、楽しみながら勉強させていただきます。

  • 私の解答は80点でした。100点の発想が全く思い浮かばなかったです。理由として私の経験で、貯金箱に貯まったお金を銀行のATMに貯金しようとしたところ「硬貨は20枚まで」という注意書きを見て、窓口に案内されたことがあります。銀行員の人は、「よく20枚以上入れるお客様がいらっしゃるんですよ」と話をしていたので、問題を解く前に「ATMは硬貨に弱い」という考えでいっぱいでした。既存の考えの強さとそれを壊すことの難しさをこの問題でわかった気がします。

  • 「円」を「千円」にする以外の回答は全部思い浮かびましたが、これってプロデューサー的視点なのかなあと自分に対して思いました。
    私は、可能性のある選択肢をできる限り思い浮かべて、それらに対して「技術的に可能か」とか「コスト的に可能か」といった重み付けをして絞る、という思考形態を主に取ります。選択肢の発案と、それの取捨選択は全く別個に行うというわけです。
    どの役職にあっても、自分の仕事は何のため・誰のため、という基本理念を設定し見失わなければいいわけですよね。ああ、それをプロデュースと名付けているのか・・・。
    人間は基礎が重要、しかし基礎はおろそかにされやすいもの、よって唯一プロデューサーだけが基礎を揺るがせない(あるいはそのような役割分担をする)、というところでしょうか。