たった一回の筆記試験ではいい学生は選べないし、学生も大学を選べない

大学のもっとも致命的な欠陥は、

「18歳で入学して、4年間で学んで、22歳で卒業する」

というモデルを前提にしてすべてのサービスが設計されているところだと、信じて疑わないマイスターです。

一回きりの入学試験の成績を根拠に、(何を勉強するのかよくわかってない)若者を大学に入学させ、

4年間、進路変更をほとんど認めず、

若者を対象とした企業の新卒一斉採用にて学生を社会に送り出したら、それでおしまい

という、硬直した、まるで工場の生産ラインのようなサービスモデルも大嫌いです。
大学で働いて、大学から給与をいただく身ではありますが、ここだけの話、こうしたモデルを憎んですら、います。

パッケージ化されたビジネスとしては、とても良くできていますが、
本当に学生は、こんなサービスを望んでいるのでしょうか?

大学で働いている方にも、こうしたところに憤りを感じる方と、感じない方がおられると思います。マイスターは、前者です。
サービスの細かいところについて語る方や、「大学の歴史論」みたいなことを熱っぽく語る方は、業界にも多いのですが、マイスターはどっちかというと、根本的なことが気になってしまう方です。

というわけで、今日、明日で、大学の「入り口」と、「出口」について考えてみたいと思います。

今回ご紹介するのは、「入り口」の話。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「慶大が予備校『早稲田塾』と共同講座」
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20060130ur03.htm
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慶應のSFCが、予備校の「早稲田塾」(ややこしい)と共同で、高校生向けに「スーパーサイエンスプログラム」という特別プログラムを開講するというものです。

-受講生は4月から8月まで7回程度、冨田教授ら慶大の教員と、早稲田塾の講師の指導を受ける。8月には、慶大先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)で合宿にも参加する。
 教授が講義するだけではなく、実験や討論、食事などを交えた交流も重視。大学院生らのプロジェクトにも取り組む。国際会議で発表できる力をつけるために、科学分野の英語も学ぶ。-
上記記事より)

…と、この種の講座としてはかなり本格的な内容。

高2、3年の15人を選抜してのプログラム、というところが、最も特徴的なところです。

-慶大は2007年度以降、先端科学以外に、情報技術(IT)など他分野の講座の開設も検討する。早稲田塾は東京都や神奈川県で計13校を展開。AO入試の対策講座にも力を入れていることから、慶大と連携することになった。冨田教授は、「入試のために勉強するのではなく、やりたいことをとことん勉強してAO入試を受ける高校生を増やしていきたい」と話している。-上記記事より)

つまり、これはSFCが求めるような高校生を採用する活動の一環として、デザインされているのですね。

…なんて書くと、

「青田買いだ」
「さすがにSFCは入試戦略がうまい。これなら、優秀な学生をいち早く集められる」

という声が、業界人から上がりそうです。

でも、ちょっと待ってください。
確かにその見方も間違ってはいないでしょうが、そうした「入試のテクニックのひとつ」という認識だけでいいのでしょうか。ここはもう一歩、踏み込んでみましょう。

ちょっと話がそれますが、
実を言うとマイスターは以前、SFCの関係者から、AOについて色々とお話を伺ったことがあるのです。

↓詳細は、以前の記事で書きましたので、こちらをご覧ください。
・日本の大学は、AO入試を勘違いしている?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50021771.html

元々、AO入試は「その大学の教育コンセプトに合った学生を採る」のが目的のシステムです。

実際SFCでは、入学後、最も高い成績を維持しているのはAO入試組だそうです。

AO入試を、単なる学生の青田買いの手段として考え、
「AOの学生は、成績がふるわないからなぁ」
なんてぼやいている大学は少なくないと思いますが、本来ならその時点で間違いに気づかないといけません。
それは、AO入試の設計を間違えています。だって、筆記試験組より成績が悪い学生を集めるくらいなら、AOの意味がないではないですか。

SFCの入試理念に関しては、上記のAO入試の他にも色々なところで、色々な人が意見を述べられています。
上記の話とは別に、マイスターが以前聞いた中で、とても印象になった話がありました。
うろ覚えですが、それは確か、

「本来なら、年中いつでも、希望する学生が審査を受けられるような体制が理想なんだ。
回数もフリーで、5月に審査を受けてダメなら、学びたい分野について徹底的に調べ直して、9月にまたプレゼンをする。それでもダメなら今度は2月。
そうやって何度も挑戦して、どこかで合格をもらえれば、入学を認める。
そういうシステムが、本当は学生にとっても、大学にとっても、理想だと思っている。
SFCでは将来いつか、そういう仕組みを本気で実現したいと考えている。

筆記試験に関しても、パソコン持ち込み可で、インターネット接続を許可する。
そうした環境を駆使して、答えのない問いにどう取り組むかを知りたい。」

…と、こんな内容だったと思います。
別にAO入試の担当者から聞いた話ではなく、ある教員の方からマイスターが伺った話です。
でも、AO入試で成果を上げている裏には、教員達のこうした発想があるのだなぁと感心したのでした。

話を戻します。

今回の、慶應×早稲田塾の「スーパーサイエンスプログラム」の記事を読んで、マイスター、思わずこの話がフラッシュバックしたのです。

マイスターが思うに、今回のこのプログラムは単なる「青田買い」ではなく、
こうした「SFCの理想の入学試験」実現のための布石なんじゃないでしょうか?

-慶大は2007年度以降、先端科学以外に、情報技術(IT)など他分野の講座の開設も検討する。-

とあります。
現在はこうして実験的に、高校生のためのプログラムということでスタートしていますが、
いずれは「1年中入試」という新しい学生募集モデルと、それに付随する大学-高校生間のコミュニケーション事業として、位置づけられるのではないかという気がしますよ。

実際に、SFCのみなさんが現在こうしたことを考えているのかは、マイスターにはわかりませんが、いずれにしても「入試」の在り方を考える上で、大いに参考になる事例だと思います。

もうひとつ、事例をご紹介しておきましょう。

■「ひと足早く大学生気分 大学生と一緒に学べる『高大連携』制度」(桜美林大学)
http://www.obirin.ac.jp/034/014r.html

「高大連携」という言葉自体は、様々なところで聞くようになりました。
高校生が大学の授業を聴講できるようにしたり、大学の教員が高校で出張講義を行ったり、というものですね。

桜美林大学も、そうした活動を行っているわけですが、

-学生と同じように、試験やレポートの成績で単位が認定され、桜美林大学の卒業単位に組み込むことが可能になります。-(上記リンクより)

という点が、非常にユニークです。
なんと、高校生が、大学の単位を取得できるのですね。しかも、この聴講に際して、お金は一切取られません。

この仕組みですが、マイスターが以前、関係者から聞いた話では、以下のようなものらしいです。
(関係者の方、もし違っていたらご指摘ください!)

○大学内に、「桜美林バンク」という銀行を作った。

○高大連携で単位を取った高校生達は、この銀行に、習得した単位を預ける。
 (生徒によっては、高校卒業までに10単位以上集める者も)

○桜美林大学に進学したら、バンクに預けた単位が使える。
 (なので、高校生は桜美林に行きたくなる!)

○もし高校生が他大学に進学した場合は、単位の移行のために、桜美林が単位の証明書を発行する。そのときに単位の証明料のような形で、大学はお金をもらう。

高校の関係者や高校生にとっても、大学で講義を受講し、実際に試験まで受けて単位を得るなんて経験は、今後のためにも非常に参考になるはずです。
大学にとっても、いい刺激になるでしょう。
しかしそこで終わらずに、上記のようなバンク制度を作ったのは、すばらしい発想だと思います。

SFCのプログラムも戦略的で評価できますが、あちらは「選抜」の要素をけっこう感じます。
それに比べると、桜美林の取り組みの方がよりスマートかも知れません。
入試の視点に限らず、地域との接点を持つという意味でも意義がありますしね。

以上、二つの事例をご紹介しました。

「学生募集」=「入試」

という構図は今後もそう大きくは変わらないでしょう。
しかし、単なる試験選抜だけが、学生を選ぶ方法でしょうか。

今後は受験生にも、入学前に大学を知る機会が必要です。
大学と受験生をマッチングさせる学生募集というのは、今後より求められてくるはずです。

これからは大学のユニバーサル・アクセス時代がやってきます。
そうした状況下でこそ、しっかり相互にコミュニケーションをとって、学ぶ意思を確認し、その上で入学してもらうことが大事ですよね。
遠回りで手間がかかりそうに見えますが、入学後の停学者数、退学者数に与える影響を考えれば、実は一番安全確実な道だと思います。

本来、入学試験というのは、その学校で学ぶ資格のある人を選ぶための仕組みのはず。
それなら従来の試験だけではなく、様々な方法があってもいいですよね。
別に、みんな横並びで同じような筆記の入学試験を、同じような時期に、同じようなスタイルでやらせる必要はないんじゃないかと思います。

そんなことを考えたのでした。

明日は、大学の「出口」の方についての記事をご紹介します。

以上、マイスターでした。