2030年の日本

大学院生の頃、日本の未来社会について研究していたマイスターです。

と言うとなんかかっこいい(?)ですが、実態はそんな大層なことではなく…
たまたま縁があって、企業と大学が共同で進めているコンソーシアムのメンバーの末席に座っていたことがある、というだけの話です。ラッキーでした。

でも、面白かったです。

そのコンソーシアムは、金融サービス業や住宅メーカー、家電メーカーなどなど、様々な企業が参加して、「2010年以降の日本のライフスタイルや、ワークスタイルを予測する、あるいは構想する」といったテーマのものでした。

当時の「2010年」は、遠すぎない、ちょっとリアルな「近未来」だったんだと思います。
企業が具体的な行動目標を立てるのにも、手頃でした。

個人の作業として取り組む修士論文は、アカデミックなテーマと手法で進めなければなりませんが、それに比べるとこのコンソーシアムは、「構想」部分で、若干クリエイティビティらしきものが入る余地があった気がします。

企業から研究費はもらえるわ、好き勝手に「未来の日本社会」のビジョンをブチあげられるわ、しかもそれを企業の偉い地位の皆様方が真剣に聞いてくれるわ…。
今思えば、なんて楽しい経験だったのでしょう…。もう一回やらせてくれー。

しかし、未来の社会ビジョンを思い描くというのは、誰にとっても楽しい作業なんじゃないかと思います。

ブログでは、日本の現状についてわりと悲観的なことを書いたりしますし、事実ここままじゃヤバイぞ、っていうことがとても多く目に付く今日この頃ですが、それでも個人的には、

「未来は今よりもっといい社会のはずだ!」

という前提を持って生きてます。あんまり根拠があるわけではありませんけど…。

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■「経済財政諮問会議:日本21世紀ビジョン」(内閣府)
http://www.keizai-shimon.go.jp/special/vision/
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そんな現在悲観、未来楽観のいいかげんな人間としては、こういう未来ビジョンは大好きです。
つい、「どれどれ、どんな未来予想図?」と、見てしまいます。

この手のレポートに描かれているのは大抵、明るい将来像なのですが、

「社会のどの辺に注目して、どのような方向性をもって未来を切り出したか」

という点に、報告主体それぞれのオリジナリティが出るように思います。

さて、経済財政諮問会議の中で行われた上記の「日本21世紀ビジョン」は、

2030年の日本社会

を想定した、未来ビジョンです。

○専門委員調査会(全体のまとめ)
○経済財政展望WG
○競争力WG
○生活・地域WG
○グローバルWG

という構成で、ワーキンググループを分けているようですね。
メンバーはいずれのWGも、大学やシンクタンクで活躍する研究者達がほとんどで、官僚の方も数人おられます。

この中で、「学びのあり方」についてどのような記述がされているのかと思い、ざっと見てみました。
今後の日本の教育に関し、多くの字数を使ってビジョンを描いているのは、「生活WG」と、「競争力WG」のようです。

例えば、こんな記述がされています。
まずは、「生活・地域WG」の報告書から。

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■「生活・地域WG」

○報告書概要
http://www.keizai-shimon.go.jp/special/vision/investigation/04/item3.pdf
○メンバー
http://www.keizai-shimon.go.jp/special/vision/life/member.html

<初等中等教育に関する記述>
「国主導の全国画一的な仕組みではなく、国と地方の役割分担を踏まえ、地域の多様な選択肢を最大限に反映させていく。このため小中学校の教育について、市町村と都道府県の双方に教育委員会があり、それに国が関与している教育行政の重層構造を改善し、学校長と地域社会に、より大きな権限をゆだねる。」

「私学の振興や公立学校における学校選択の実施など、「多様性」と「選択」を重視し、多様な経営形態の学校間の各々の役割分担を踏まえた上での対等な競争条件を整備する。また、今後の人口減少時代には珍しくなくなる学校の経営難・倒産に備えて、修学・単位などの記録の統一的な管理や円滑な転校などが可能となる仕組みを整備することが大きな前提となる。」

「専門職大学院を活用し、外国人を含めた社会人からの幅広い登用の道を開いて、教員の多様性を確保する。」

<高等教育に関する記述>
「職業能力形成も含めた多様な高等教育機関が個性・特色を発揮できる競争的な環境をつくる。具体的には、大学内での学部にまたがる専攻・副専攻などの仕組み( 例えば労働法を専攻する法学部の学生が経済学部の労働経済学を副専攻とすること)、他の学校・学校種での修得単位の認定、就業体験の単位認定、他の学校・学校種への編入等について、これまで以上に各大学の取組が進むよう促進する。また、奨学金の拡充を図り、個人のキャリア設計に応じて教育機関や受講科目の組み合わせを選択できるようにする。」

「パートタイムの大学院生も含めて、仕事や家庭と大学院での勉学とを両立できる職場環境などへの改善を促進し、大学院に参加しやすい環境を整備していく。こうした条件が整うことで、2030年には欧米諸国の大学院の状況を踏まえつつ、日本において大学院へのユニバーサルアクセスが可能となる社会環境への転換を目指す。こうしたことにより、日本の大学院生を、現在の人口千人当たり1.99人から、2030年には米国並みの8人へと約4倍に増加させることを目指す。」

(以上、「生活・地域ワーキング・グループ報告書」より。
報告書には、上記だけでなく、もっと色々な記述がされています。)
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未来ビジョンというのは、だいたい総花的な記述になります。
上記の報告書にもそういう印象はありますね。
それに「こんなの、現場の俺たちは職場で普段から言ってるよ」なんて思っちゃうような内容も、あると思います。

でも、上記の報告書に価値があるとすれば、
「一つの分野の専門家だけではなく、多様なジャンルの代表者達が、生活や地域の在り方について議論した結果」だっていうところではないでしょうか。

マイスターは教育に関する記述だけを上に抜き出してご紹介しましたが、この報告書は、もっと広いテーマに関する議論の中で、すりあわせられた結果まとめられたものなのです。
特定業種の代表者が好き勝手に主張するのとは、ひと味違った視点で書かれているわけですからね。マイスターが書くブログなんぞよりはずっと説得力があるんじゃないかなと思います(^_^;)。

「日本の大学院生を、現在の人口千人当たり1.99人から、2030年には米国並みの8人へと約4倍に増加させる」というところには、具体的な数字が入っていて、目を引きます。

次に、「競争WG」の成果から。

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■「競争力WG」

○報告書概要
http://www.keizai-shimon.go.jp/special/vision/investigation/04/item2.pdf
○メンバー
http://www.keizai-shimon.go.jp/special/vision/competition/member.html

<コンテンツ産業に関して>
「アニメ、食、ファッション等の日本の生活・文化の魅力が世界から人を惹きつけ、例えばアニメ・アカデミーのような世界的な拠点ができ、次世代を担う若い才能を育成する機関が多数創設されることも考えられる。具体的には、イラストやシナリオを若い頃から教える世界に開かれた特殊専門学校の創設や、美術大学における専門学科の創設などが考えられる。また、実技だけでなくいかにして収益性のあるビジネスとして運営するかというマネジメントも合わせて、そうした機関で統合して教えることも必要である。そのための教員を実務者から登用して育成と伝承の場を作ることにより、安定した収入保証をすることで、このビジネスに関わることがより魅力的になっていくだろう。」

「日本が強みを発揮できそうなアニメ、ゲーム、モバイルインターネット、民生用エレクトロニクス、対個人サービスなどの様々なコンテンツ分野については、十分な知識教育の場が整備されていないという現実がある。こうした専門的技能の修得のみならず、実践的な経営経験とMBAのような知識教育という両輪で環境が整備されつつある若手の経営者の育成についても、大学と企業と双方による「教育における産学連携」を一層進め、多彩なプロフェッショナルを育て上げる仕組みを整備していく必要がある。加えて、博士号取得者で仕事に就けない者も増加しているということを考えると、企業側が、専門的知識・技能を有する外部の人材を活用しやすいような人材育成のあり方を考える必要がある。また、官においても、専門性の高い人材を活用していくことが求められる。」

<若手研究者養成に関して>
「優秀な若手研究者が年齢、性別、国籍により差別されることなく能力を発揮できるシステムつくりや、大学、特に若手の研究者が民の現場に移るインセンティブを与え、人材交流の活性化を図ることもイノベーションの推進のために重要だろう。加えて、少子高齢化による研究者の減少、時代の研究を担うべき青少年の基礎学力の低下に対処するためには、理数教育を充実し、科学への関心を高めると共に、優れた研究成果には社会的にそれなりの報償が得られるような仕組みを考える必要がある。」

<「多様多才社会の実現」に関して>
「かつて「子供は学校だけ、大人になると働くだけ、歳をとるとすることがない」と言われたが、そうした単線的な人生観では、もはや立ち行かなくなっている。」

「労働市場においても、年齢、性別、時間、場所にとらわれず楽しく働くことのできる「多様多才な社会」の実現が望まれる。高齢者、女性、若者が年齢や性別による差別なく多様な形態で働けるような労働市場を整備すると共に、仕事での成功への道筋が多様にあり、必要であれば、いつでもどこでも生涯にわたって才能を磨くことができる環境をつくることが重要である。このため、「生涯二転職四学習」(生涯で2回転職し、就職前、転職の間の2回、引退後の計4回の機会に学習する)が可能となるよう、転職に不利にならない税や企業年金を実現し、ニーズに合った職業訓練・学習の場を設ける必要がある。日本の地域的多様性を促進することも、多様多才な社会の実現に不可欠であり、そのためにも真の地方分権が求められる。経済的に停滞している地方を活性化するためには、できるだけ多くの政治的・経済的自主性を地方に付与しなくてはいけない。そして地域間の競争を促進する必要がある。また、民間レベルでは、規制緩和が多様性を生み出す上で鍵となる。個人や企業がいろいろな挑戦をできるような環境を整備するのだ。」

(以上、「競争力ワーキング・グループ報告書」より。
報告書には、上記だけでなく、もっと色々な記述がされています。)
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一番目を引いたのは、「生涯二転職四学習」(生涯で2回転職し、就職前、転職の間の2回、引退後の計4回の機会に学習する)というワードです。

マイスター、以前から日本の教育システムの最大の問題は、「一度卒業したら、二度と学校に行かない」ということだよなぁ、と考えていました。

以前、↓こんな記事も書きました。
・日本の「豊かさ」ランクが11位なワケ
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50044821.html

(国連開発計画(UNDP)が毎年発表している、「人間開発指数」のランキングで、日本の順位を下げている要因の一つが、社会人学生の少なさだという内容です)

でも、こんなにシンプルでわかりやすいフレーズで、それを表現することはできていませんでした。「生涯二転職四学習」かぁ。
やるなぁ、WGメンバーのみなさん。

以前、アメリカでは「人生に迷ったら大学に戻れ」という言葉があるんだと、誰かに聞きました。
本当かどうかは知りませんが、実際、アメリカの大学院生平均年齢は30歳を超えているなんて記事を目にしたりしますから、そういう文化なのでしょう。

そういう社会っていいよなぁ、うらやましいなぁ、日本もそうならなければ! と、マイスターは、いち社会人として強く思うのです。
※もちろん、少子化にあえぐいち大学職員としても、強く思ってます(^_^;)。

必要があれば、いつでも学び、自分の能力を磨き上げられる社会。
そういう社会を作るのが、マイスターの目標です。

ですので、この報告書には共感するところが多かったです。

…っていうか、大学院生の頃書いたコンソーシアムの報告書にも、同じようなことを書いていた気がします。

ビジョンの基本的な骨組みとしては、色々な人が色々なところで、ずっと前から提示している内容も多いですしね。

しかし、設定が「2010年」から「2030年」に変わったのに、あんまり描かれているビジョンが変わっていないのは、それだけ日本社会が変わるのには時間がかかるということなのでしょうか。

実現は大変みたいです。理想社会のビジョン。

好き勝手に理想の社会像を描いていた学生の頃と比べると、
今はもう、それを実現させる社会人の側に来ているんだよなぁ。

などと昔を振り返りつつ、未来のことを考えたマイスターでした。

3 件のコメント

  • wpsckk様:
    マイスターです。こんにちは。
    コメント、ありがとうございます。そして、いつも読んでくださっているとのこと、うれしいです!
    さっそく、自分なりに調べて、考えを書いてみました。
    とても、一回では言えなさそうですので、まずは情報のまとめから、という感じですけれど…。
    http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50136358.html
    関連情報、今後も調べていきたいと思います。
    どうぞよろしくお願いいたします!

  • だいぶ返事が遅くなってしまいましたが、ありがとうございました。今後ともよろしくお願い申し上げます。