大学には、「建学の精神」って、ありますよね。
それとは別に、「教育理念」というのが定義されていることもあります。
マイスターはこういったものを聞いたり読んだりするのが好きなので、そのうち、
「日本の大学 個性的な『建学の精神』選手権!」
なんて記事を書いてみたいと思っています。
それは後日にまわすとして、今日はちょっと違う話を。
企業にも、「社是」「社訓」なんてものがあります。
企業のwebサイトを見ると、たいていどこかに載っています。
たいてい、お客様のためにとか、真心を持ってとか、そんな当たり障りのないことが書いてあります。
あまりに美辞麗句ばっかりが並んでいると、自分達のためのものというより、世間へのイメージアップのための社是なんじゃ?なんて思うことも。
新興企業の社是は、歴史がないからか、あんまり面白くないことが多いです。
ただ、個性的な創業者を持っているだと、ちょっと違ってきます。
「従業員ハ厳選サレタル可成小員数ヲ以ッテ構成シ、形式的職階制ヲサケ、一切ノ秩序ヲ実力本位、人格主義ノ上ニ置キ個人ノ技能ヲ最大限ニ発揮セシム」
これは、ソニー創業時の「設立趣意書」の一節です。創業者、井深大氏の言葉です。
今でも新しく感じますね。
「わが社は世界的視野に立ち、顧客の要請に応えて、性能の優れた、廉価な製品を生産する。わが社の発展を期することは、ひとり従業員と株主の幸福に寄與するに止まらない。良い商品を供給することによって顧客に喜ばれ、関係諸会社興隆に資し、さらに日本工業の技術水準を高め、もって社会に貢献することこそ、わが社存立の目的である」
これはホンダの社是。本田宗一郎氏の言葉です。グローバルです。
ホンダには「三現主義(現場、現物、現実)」などの理念が残っており、けっこう、今でも社員に浸透しているようです。そちらの方が、本当の意味での「社是」かもしれませんね。
「産業人タルノ本分ニ徹シ
社会生活ノ改善ト向上ヲ図リ
世界文化ノ進展ニ
寄与センコトヲ期ス」
これは松下幸之助の言葉。ご存じ、松下電器産業の創業者です。
この「世界文化」という言葉が、PHP研究所の事業などにつながっているというわけです。
松下氏は、
「松下電器は何を作っているところかと尋ねられたら、人を作っているところだと答え、しかる後に電器製品も作っておりますと答えていただきたい。」
などなど、シンプルでわかりやすい名言を数多く残していますので、やはり、社是よりそういった言葉の数々の方が知られているかもしれませんね。
社是というのは、創業者の精神を後世まで長く伝えるための機能を持っています。
将来までずっとその企業の社員を律し、会社の隅々まで創業理念を浸透させる、それが社是の目的と言えるでしょう。
したがって一般的に社是には、時代が変わっても色あせない普遍性を備え、ある程度の重みと格式を感じさせ、血が通った、そんな文章が求められるのです。
誰が見ても、「ほぅ、この会社は、なかなか立派な理念を持っておられますな」と感心する、みたいな。
しかし、そんな中、かなり異色な社是を持つ企業があるのです。
それは、超有名企業、電通。
その名もズバリ、「電通鬼十則」です。
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電通鬼十則
1 仕事は自ら「創る」可きで与えられる可きでない
2 仕事とは先手先手と「働き掛け」て行くことで受け身でやるものではない
3 「大きな仕事」と取り組め 小さな仕事は己を小さくする
4 「難しい仕事」を狙え そして之を成し遂げる所に進歩がある
5 取り組んだら「放すな」殺されても放すな 目的完遂までは
6 周囲を「引き摺り廻せ」引き摺るのと引き摺られるのとでは永い間に天地のひらきが出来る
7 「計画」を持て 長期の計画を持って居れば忍耐と工夫とそして正しい努力と希望が生れる
8 「自信」を持て 自信がないから君の仕事には迫力も粘りもそして厚味すらがない
9 頭は常に「全廻転」八方に気を配って一分の隙もあってはならぬ サービスとはそのようなものだ
10 「摩擦を怖れるな」摩擦は進歩の母 積極の肥料だ でないと君は卑屈未練になる
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何がすごいって、まず、タイトルの「鬼」の一文字がすごいです。
有無を言わさぬ圧倒的な迫力。
読んだ人を感心させるどころか、引かせかねません。
文体にも、勢いがあります。
「当社の企業理念はお客様第一主義です」なんてあいまいに書かれた他社の理念をふっとばしそうな鼻息の荒さです。
しかし、読んだ人間の自律を促すという意味では、これ以上効果てきめんな社是をマイスターは知りません。
そもそも「電通鬼十則」は、電通の中興の祖と呼ばれる吉田秀雄氏が、業務の間に(主に自分のために)書き記した教訓メモが始まりだと言われています。
※吉田氏については、以下の書籍をご覧ください。
われ広告の鬼とならん―電通を世界企業にした男・吉田秀雄の生涯
ですので、これは「創業者の言葉」とは言えないのですが、今や電通マンのみならず、他業種の方々にもよく知られるようになり、事実上、電通グループ社員心得のようになっています。
よく他の企業の社是に、部分的にそのままパクられたりしているとか。
それどころか、英訳されたものが、海外企業で使われたりもしているらしいです。
さて、この「電通鬼十則」、激しい文体に最初はうっ!となりますが、
内容は、かなり良いんじゃないかと個人的には思います。
仕事をするにあたって、最も大切な原則を言い当てているように感じます。
特に、教育業界の皆様には、以下の以下の4つを強くご紹介したい。
これらの要素は、教育業界に最も不足していると思うからです。
1 仕事は自ら「創る」可きで与えられる可きでない
2 仕事とは先手先手と「働き掛け」て行くことで受け身でやるものではない
6 周囲を「引き摺り廻せ」引き摺るのと引き摺られるのとでは永い間に天地のひらきが出来る
10 「摩擦を怖れるな」摩擦は進歩の母 積極の肥料だ でないと君は卑屈未練になる
おそらく教育業界の方が初めて「鬼十則」を読んだ時、強く抵抗感を感じるのが6番と10番ではないでしょうか。
無理もありません。一般企業の社員でも「引きずり回せ」とまではなかなか思えないでしょう。
そもそも、本当に教育の現場でしょっちゅう周囲を引きずり回してたら、たぶん現場は成り立たなくなると思います。
当然、賢明なるみなさまは、そうお考えになったことと思います。
マイスターもそう思います。
しかし、
「あぁ、本当はこれを提案した方がいいんだろうなぁ。
でもそうしたら、○○課に迷惑がかかるし、
○○さんには、余計な業務を増やしちゃうことになるよなぁ。
どうせ反対されるし、周囲に波風たてたくないし、
自分の考えで、みんなを巻き込むのはダメだから、
提案はまたいつか、可能そうな時期が来てからにしようっと。」
などと、周囲を引きずり回すのを過度に恐れる余り、すべきことができない人がいたとしたら…それはそれで実に大きな問題だと言えそうです。
教育業界の人には、その場の空気を読み、周りの人の気持ちを尊重する方が多いとマイスターは感じます。
教育がチーム作業であるから…ということだけがその理由ではないでしょう。
非営利組織だから競争は馴染まない、という意識も根底にあるでしょうし、
もともと教育業界に入って来られる方々に、素直で物わかりの良いタイプが多いということも関係しているような気がいたします。
いずれにしても、「周囲を引きずり回す」のが苦手な方が一般企業と比べてもかなり多くおられるというのが、個人的な実感です。
そうしたメンタリティは、人間として素晴らしい長所でありますが、いきすぎると短所として現れてきます。
上述した例のように、「人間関係が第一で、仕事が第二」という行動パターンに陥ってしまうと、これは、産業人として失格ですよね。
鬼十則の中の表現を用いるならそれは、「摩擦を怖れるあまり、卑屈未練な仕事の進め方ばかりになってしまう」という状態です。そうなってしまうのは避けたいわけですが、油断するとあっという間に、そういう仕事しかできなくなってしまいそうですよね。
「引き摺るのと引き摺られるのとでは永い間に天地のひらきが出来る」
なんて言葉も十則の中にありますが、身を置く環境によっては、本当に仕事ぶりに天地のひらきができてしまうかも知れません。
「そう言えば、ここしばらく誰とも摩擦を起こしてないぞ」と思ったら、ご自身の仕事ぶりを振り返ってみてください。
摩擦を恐れずに仕事をしてきた学生時代の同期とは、すでに大きな差が付いているかも…。
マイスターも実は、この「電通鬼十則」をプリントアウトし、職場のデスクにこっそり貼り付けています。
転職以来、周りを引きずり回したり摩擦を起こしたり、という状態から遠ざかってきたので、自戒の意味を込めて、たまーにこの十則を眺めています。
みなさんにも、オススメします。
言うべきことを言えない時や、やるべきことを提案できない時など、心の支えになるかも知れません。
「周囲を引きずり回せ!」なんて文章がデスクにあるのは抵抗が…という方は、英語版もありますので、こちらをどうぞ。
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Dentsu’s 10 Working Guidelines
1. Initiate projects on your own instead of waiting for work to be assigned.
2. Take an active role in all your endeavors, not a passive one.
3. Search for large and complex challenges.
4. Welcome difficult assignments. Progress lies in accomplishing difficult work..
5. Once you begin a task, complete it. Never give up.
6. Lead and set an example for your fellow workers.
7. Set goals for yourself to ensure a constant sense of substance.
8. Move with confidence. It gives your work force and substance.
9. At all times, challenge yourself to think creatively and find new solutions.
10. When confrontation is necessary, don’t shy away from it. Confrontation is often necessary to archive progress.
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(英語にするとまったく違和感ないですね。
「 取り組んだら放すな。殺されても放すな」が、「Never give up」の一言で済まされちゃってますし…)
そんなわけで今日は、「電通鬼十則」についてご紹介いたしました。
教育業界に務める我々にとっても、学ぶところの多い十則だと思います。
ぜひ、手帳に転記するなり、プリントしてデスクに貼るなりしていただいて、「教育の鬼」を目指していただければと思います。
以上、マイスターでした。
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(※)
ちなみに、ズバリ「鬼十則」を紹介する書籍もあるのですが、あまりオススメはしません。
マイスターは以前ちらっと流し読みしただけなので、書籍の内容はもう全然覚えていませんが、Amazonのレビューでひどい点を付けられています。
どうしても気になる方はどうぞ。