先日、米軍基地の中で授業を行っている、「基地内大学」についてご紹介しました。
・米軍基地内大学への「留学」
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50130519.html
この記事で、基地内大学は、アメリカ式の高等教育を日本国内で行っているという、極めて例外的な存在、とお伝えしました。
基地内大学は日本人にも開放されていますが、
ただ元々アメリカの軍属およびその家族のためのものであるので、入学にあたっては当然そうした方々が優先され、日本人にとっては狭き門である、とも申し上げました。
ただ、記事の最後にご紹介した「レイクランド大学ジャパン・キャンパス」だけは、日本人のために開設された大学です。
このへん、かなり重要なテーマだと思いますので、改めてもうちょっと詳しくご紹介してみます。
レイクランド大学ジャパンキャンパスの売り文句は、
「(文科省の指定は)日本校があるアメリカの私立大学としては初めて」
というもの。
しかしマイスター、先日の記事を書いた後で、
「あれ、まてよ?
確か、テンプル大学っての、なかったっけ?」
と思い至りました。(大学関係者の方には、この名前、ご存じの方も多いと思います)
実はマイスター、大学生の頃にこのテンプル大学に興味を持ち、調べたことがあったんです。ただ、そのときは「自分にはあまりメリットがなさそう」と思ったのでした。で、長らく関心を失っていたわけです。
テンプル大学、そう言えばどこにあったんだっけ…と、今回改めて調べてみたら、ズバリ東京都港区でした。
今のマイスターの住まいから徒歩10分くらいの場所にありました…。
しまった、もっと早く視察に行っておくんだった…orz
調べたところ、以下の3校が、日本の文部科学省より『外国大学の日本校』として正式に指定を受けている大学になるようです。
【文部科学省より『外国大学の日本校』として正式に指定を受けている大学】——————————————–
■テンプル大学ジャパンキャンパス
http://www.tuj.ac.jp/newsite/main/indexj.html
1983年、日本で初めてアメリカの大学教育を提供する場として、大学学部課程を東京に開設。今では学士号、修士号、博士号を取得可能。
2005年2月に文科省から指定を受ける。
■レイクランド大学ジャパン・キャンパス
http://www.japan.lakeland.edu/index2.html
1991年よりジャパン・キャンパスで2年間の準学士号課程のプログラムを提供開始。
2005年12月に文科省から指定を受ける。
■カーネギーメロン大学日本校
http://www.cmuj.jp/index_jp.html
2005年8月から授業を開始。現在は修士課程のみ。
2005年12月に文科省から指定を受ける。
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海外の大学で、いち早く日本にキャンパスを置いたのは、上記の通りテンプル大学です。
(※テンプル大学は「州立大学」なので、レイクランド大学の「日本校があるアメリカの私立大学としては初めて」というコピーはウソにはならないという訳ですね…)
ただそのテンプル大学も、20年以上にわたり、日本では「正式な高等教育機関」として認められない状態での教育活動を強いられていたのです。
通学定期の購入は不可能、
卒業後、日本の大学への編入も認められない、
日本の大学との単位互換もできない、
そんな状態の中で、それでもアメリカの教育を受けたいという方が通っていたのです。
(このあたりの事情はレイクランド大学も同じでした)
そんなテンプル大学も2005年2月に、文科省からいち早く『外国大学の日本校』として正式に指定を受けました。今は通学定期も買えます。
こうしたアメリカの大学の日本校が、2005年になって、急に文科省から正式な高等教育機関として指定を受けてきた。
そういうことなのです。
なんだか、急だなぁという感じがしませんか?
そんな思いを強くする要因がもう一つあります。
レイクランド大学と並んでもう一校、
カーネギーメロン大学が新しく、神戸に乗り込んできたのです。
名前をご存じない方もいらっしゃるかも知れませんが、このカーネギーメロン大学は、情報科学、コンピューター科学の分野で、全米ランキングNo.1の大学なのです。
日本の情報技術研究者の中にも、カーネギーメロン大卒業生という方はちょくちょく見かけます。この分野ではマサチューセッツ工科大学やスタンフォード大学、U.C.バークレーを抜いて、一位にランクされる大学です。
IT業界も、同校が進出を決めた1年前から、このことを大きく報じていたようです。
■「名門カーネギーメロン大学が神戸に日本校、高度な情報セキュリティ人材を育成」(ITmedia エンタープライズ)
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0411/26/news042.html
■「カーネギーメロン大学情報大学院日本校、神戸に開校」(@IT)
http://www.atmarkit.co.jp/news/200411/27/hyogo.html
テンプル大とレイクランド大の文科省指定も十分に大ニュースですが、カーネギーメロン大のそれは、影響の大きさという点で比較になりません。
情報技術という特定の分野、それも現時点では修士課程のみですが、少なくともこのジャンルに関しては日本のトップ大学とはっきり競合するレベルの大学が来たのです。
もし旧帝大とカーネギーメロン大の進学で迷う人がいたら、個人的には(ちょっと残念ですが)人によっては後者を薦めてしまいそうです。そういう大学です。
初年度は情報セキュリティのプログラムに特化し、約20名の学生を募集するとのことですが、コースや学生数はそのうち拡大していくかも知れません。
カーネギーメロン大の進出は、
日本の大学業界が初めて迎える、
本格的な「黒船来航」かも知れません。
(関係ないけど、開校場所も神戸で、なんとなく、黒船を連想しませんか?)
で、ね。
カーネギーメロン大を含め、3校もの大学が1年者間に文科省から指定を受けたという、この流れが気になるのですよ。
マイスターは以前から、
日本がアメリカから次に規制撤廃、市場解放を迫られるであろう分野は、高等教育ではないかと考えておりました。
もしかして、その最初の予兆、来てませんか?
これまで何年も日本で活動をしていた2校はともかく、
急に全米トップ校が大学院を開設して、
それとほぼ同時に文科省が『外国大学の日本校』としての正式な指定を出す。
なんだか、タイミングがいいなぁと思うのです。
偶然かも知れませんが、いずれにしても、2005年のこの流れが今後、さらなるアメリカの大学参入のキッカケになるような予感がしなくもないです。
レイクランド大学も、カーネギーメロンとはまた違った面でインパクトがあります。
レイクランド大学ジャパンキャンパスで提供されているのは、2年制の短大課程です。
内容は、わかりやすく言えば教養。リベラル・アーツです。
この2年間のリベラル・アーツ教育を終え、3年目以降はアメリカの大学に編入することを想定しているカリキュラムです。
アメリカでは、比較的小規模な面倒見の良い大学でリベラルアーツを学び、途中で他の大学に編入するなんてことは、わりと一般的に行われているようです。
日本からアメリカの大学に留学する場合、多くの留学コンサルタントが勧めるのも実はこうした方法なのです。
別にズルとかではなく、日本に比べてわりと自由度の高い学び方が認められているということです。
そうなると、日本の高校生から見れば、レイクランド大学ジャパンキャンパスは、
「アメリカ留学をするけど、そのうち最初の2年間だけは、日本で済ませていける」
という環境と、同じ意味を持っていると思いませんか。
いきなり現地の4年制大学に飛び込むより、日本で英語での講義に馴染んでから行きたいという学生さんって、一定層いると思います。
留学しようかどうか迷っていたり、日本で悩みながら英会話学校に通っていたりするのなら、とりあえずレイクランド大学ジャパンキャンパスに通ってしまえばいいのです。
英語力を鍛えられますし、そこで取得した単位はアメリカの他の大学でも認められやすいはず。
言ってみれば留学斡旋機関のような機能を、このレイクランド大学ジャパンキャンパスは持っているというわけです。
今回、文科省から正式に高等教育機関として認可を受けたことで、より高校生にアピールしやすくなったでしょう。
(現に同校はいま、電車内の広告やweb上のバナー広告などを積極的に出し始めています)
これは、やる気のある高校生側からしたら、魅力的だと思います。
日本の留学コンサルタント会社は、手痛い影響を受けるんじゃないかと思います。
そんなわけで、色々とご紹介しました。
こうした事例に関し、まだまだ書きたいことはいっぱいありますが、本日はこのくらいにしておきます。
最後にひとつだけ。
マイスターは、海外の大学が日本の教育に参加するのは、大歓迎です。
歓迎する一番の理由は、学ぶ欲求を持つ日本人達にとって、メリットが大きいからです。
選択肢が増え、世界的に定評のある教育を国内でも受けられるようになるのであれば、これは学生にとって非常に大きなメリットです。
そんな良い状況に、何も反対することはないだろうとマイスターは考えています。
もう一つの理由は、海外の勢力が参入することで、日本の大学も活性化するだろうということです。
残念ながら日本という国は、海の外からの圧力を目の前にしないと本気で変わらないのです。それは、ペリー来航以来ずっと変わっていません。
(一人一人のレベルで見れば、危機感を持って頑張っている人はいるけど、組織全体、国全体としてはなかなか変わらない)
民間企業は10年前からグローバルエコノミーという黒船と戦ってきました。
結果、つぶれた企業もいっぱいありますが、日本企業の経営の質は上がりました。
大学は、ちょっと遅れて参戦するだけです。
その意味で、来るなら早く来いと思うのです。ショック療法は早い方がいいですからね。
ぜひ、私達も負けないように、実力を磨いて待ち受けていましょうよ。
そんな風に考える、マイスターでした。
テンプルは、元々は私立でしたが、後になって州立に移管されています。
http://www.tuj.ac.jp/newsite/main/about/historyj.html
↑ここには、移管された年月がはっきり書いていませんが、日本キャンパスを開設したときは、まだ“私立”であったことを覚えています。
高等教育における市場開放の関しては、↓のような背景があります。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/024/siryou/04010802/003.htm
「国際的な大学の質保証に関する国際機関等での交渉・協議の状況」=
国際的な大学の質保証に関する調査研究協力者会議(第2回 2003年11月10日)-配布資料
N.IDEMITSUさま:
こんにちは、マイスターです。
これは、有力情報ありがとうございます!
テンプル大学の年表を見ると、1965年から州立っぽい書き方しかされていないので、教えていただいて助かります。
さっそく、後ほど本文追記もしくは新しい記事という形でご紹介させていただきたいと思います。
そうなると、レイクランド大学の「日本校があるアメリカの私立大学としては初めて」はギリギリセーフくらいの表現ですね。
ちなみに、テンプル大学のwebサイトには「日本を離れずにアメリカの大学の学士号、修士号、博士号を取得することのできる唯一の大学です。」と書かれていて、これもそろそろ誤解を招きそう。
マイスターさま
先日はどうも。。。
今回のトピックとは正反対となりますが日本の教育機関が、海外に大学を設置し、アクレディテーションを受けるというパターンもあるみたいです。
バベル翻訳大学院
http://www.babel.edu/accreditation.html
でも、ねらっているマーケットはハワイから遠隔教育で日本の学生を募集している訳でして、、車で言うと、US版のアコードを日本に輸入するような感じになっています(複雑・・・)
国境を越える高等教育機関の動向はWTO/GATでもテーマとして取上げられ、最終的には昨年ユネスコとOECDに議論の場を移し、「国境を越えた高等教育の質保証」としてガイドラインが制定された模様です。
http://www.oecd.org/document/29/0,2340,en_2649_201185_35793437_1_1_1_1,00.html
ではでは、難しい話しはともかくまた飲みましょ・・・