今日は、12月中に見かけたニュースをいくつかご紹介します。
【教育関連ニュース】——————————————–
■「特集:マンション耐震強度偽装」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/special/051118/
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やっぱり一番はこれでしょう。
我が国はマンション耐震設計の偽装問題で揺れてます。いや、シャレでなく。
姉歯「元」建築士の名前が最初に報道されましたが、その後、組織的に圧力をかけていたとかどうとかもう連日のように。
マイスターもいちおう建築学科卒なので、かなりリアリティーを感じながらニュースを観てます。
「一級建築士」という資格があります。
欠陥住宅の番組などで登場しますよね。「建物のことなら何でも知っている!」という、頼れる感じの人たちですね。
現在のところ、建築に関する最上位職と言っても差し支えありません。
一級建築士は制度上、あらゆる建物の、あらゆる設計ができます。
しかし実際の実務では、「構造を専門とする建築士」「内装を専門とする建築士」「設備設計を専門とする建築士」など、各自のスペシャリティに沿って仕事をしていることが少なくありません。
個人住宅くらいならともかく、鉄筋コンクリート造等のマンションのすべてを、一人の建築士が設計することは事実上不可能だからです。
弁護士と比較してみましょう。
弁護士の場合、まず司法試験という総合的なテストに合格して司法研修生となり、やがて実務を通じて「民法のプロ」「知的財産権のプロ」「交通事故裁判に関するプロ」など、自分のスペシャリティを構築していきますよね。
建築士資格も、それと同じです。
法学部のカリキュラムと建築学科のカリキュラムも、それぞれ資格を得るために必要な知識を総合的に履修させるという点で、やはり考え方は似ています。
違うのは、建築の場合、必ず構造、設備、建築プランなどの専門家が集まって仕事をしなければならないところです。
弁護士の場合、民法の裁判なら民法のプロが一人いれば事足りますよね。建築では必ず全分野の知識が必要になります。そこがまず違います。
ならば現状の一級建築士を廃し、はなから「構造建築士」「設備建築士」などという資格を分離させておいた方が、責任も権限も明確になっていいんじゃないか、という意見もあります。
ただ、大学の建築学科のカリキュラムは通常、「浅く広く」の一級建築士試験に対応して組まれていますから、もし上記のように建築の世界で職能を細分化させていくとしたら、大学のカリキュラムにも影響が出そうです。
また総合的な知識を持った「一級建築士」のさらに上に、「意匠・構造・設備」の専門建築士という上級資格を創設する、という構想もあるようです。
詳細はこれから議論されるわけですが、この場合もしかすると、大学院レベルで分野別の高度な専門教育を受けないと専門建築士資格は取得できない、なんてことになるかも知れません。
以前からこうした意見は業界内で聞かれていたのですが、今回の一連の偽装事件で、より議論が白熱化することになりそうです。
どのように法律が改正されるにしても、大学や大学院の教育体制に、何らかの影響が出るでしょう。
【教育関連ニュース】——————————————–
■「ES細胞:完全なねつ造 ソウル大正式発表」(毎日新聞 MSNニュース掲載)
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20051230k0000m030027000c.html
■「黄教授、世界初のES細胞も偽物か…韓国紙報道」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20051230i311.htm
■「ES細胞研究の黄教授、他の成果にも疑惑 韓国メディア」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/science/news/TKY200512200467.html
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お隣、韓国のこの問題も深刻です。
韓国政府は、2010年までに韓国をバイオ産業先進国に飛躍させるという目標を掲げています。
「バイオ産業発展戦略」及び「バイオ分野人材養成総合計画」の策定(2001年)、バイオ産業関連総合情報システム構築(2000年)などのソフト施策、「技術実用化センター」設立、「安全性評価センター」拡充、「バイオ産業ベンチャー企業支援センター(全国8 ヶ所)」設置などのインフラ整備などなど、様々な育成策を展開しています。
(参考:『にいがたグローバル・ビジネス』48号)
早い話、国を挙げて、重点的に取り組んでいるのです。
すっごく力を入れているのです。
その中心にいたのが、ソウル大の黄禹錫(ファン・ウソク)教授だったのです。
黄教授は「もっともノーベル賞に近い韓国人研究者」ということで、韓国内では英雄扱いされていたそうです。
韓国が世界に誇るそんな黄教授の研究成果がねつ造だったとなると、韓国のバイオ産業政策も揺らぐわけです。
↓すでに、黄教授が主導した研究プロジェクトの予算が削減されているようです。
■「【論文ねつ造】韓国国会『黄禹錫予算』70億ウォン削減」(朝鮮日報)
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/12/27/20051227000019.html
ことは、黄教授個人の問題に収まっていないのですね。
↓まだ疑惑レベルですが、こんな報道も。
■「【論文ねつ造】『国家情報院がもみ消し工作に関与』か」(朝鮮日報)
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/12/28/20051228000021.html
↓さらに、科学自体に対する信頼感も損なう結果になっているようです。
【論文ねつ造】英FT「科学に対する認識に悪影響」(朝鮮日報)
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/12/30/20051230000053.html
■「【論文ねつ造】『マンガ黄禹錫』、すべて回収へ」(朝鮮日報)
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/12/24/20051224000014.html
韓国政府や国民にとっては、まさに悪夢のような出来事であったわけですね。
【教育関連ニュース】——————————————–
■「論文データ改ざん疑惑、潔白資料出せない可能性」(読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20051229i514.htm
■「京大教授、助手の論文を無断引用 停職処分に」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/edu/news/OSK200512200073.html
■「不正相次ぐ科技立国 ニッポン」(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20051229/mng_____kakushin000.shtml
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日本でも、研究者による不正はわりと日常茶飯事的に起きているようです。
論文を発表しないと、自分の「成果」が生まれないわけですから、研究者にとって、データを改ざんしてしまおうかという心理的な誘惑は、常にあることでしょう。
「プロ意識の欠如」という点がもちろん問題なわけですが、精神論を語ってばかりでも問題は減らないわけですから、何か対策を打つべきですよね。
その一つは、「罰則を強化する」ということでしょう。
■「でっち上げ研究者に罰則 文科省が導入検討」(共同通信 Exciteニュース掲載)
http://www.excite.co.jp/News/society/20051228174639/Kyodo_20051228a489010s20051228174642.html
「改ざんするメリットと比較して、
それが発覚したときのデメリットをものすごく大きくする」
というのは、わかりやすい方策です。
建築士などの職業では、姉歯氏のように資格を取り上げるということが考えられますね。
研究者の場合はこうしたお金の面での罰から、最も厳しい「学会追放」まで、様々なレベルの案が考えられます。
罰則で人を縛るというのはあまり気持ちの良い考え方ではありませんが、うまく使えば抑止力になるかも知れません。
もう一つの対策は、技術者倫理に関する教育を大学で義務づけるというものです。
例えば工科系の分野には、大学が国際的な技術者教育を行っているかどうかを審査する機関として、「日本技術者教育認定機構(通称「JABEE」)」という非営利組織が存在します。
このJABEEが行っている「日本技術者教育認定基準」の認定を受けると、
<このカリキュラムは世界レベルです>
と認められたことになるのですね。
・「分野別認定プログラム:2005.5」(JABEE)
http://www.jabee.org/OpenHomePage/accredited_programs_bunya2004.htm
認定を維持するためには、数年ごとに、カリキュラムやシラバスの内容にまで渡るかなり詳細な審査を受け直さなければなりません。かなり厳格な認定です。
この日本技術者教育認定基準をクリアし、JABEEの認定を受けるには、様々な条件を満たさなければならないのですが、その中に、こんな規定があるのです。
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認定を希望するプログラムは、下記の基準1-6(補則を含む)をすべて満たしていることを根拠となる資料等で説明しなければならない。
<基準1 学習・教育目標の設定と公開>
:
b.技術が社会や自然に及ぼす影響や効果、および技術者が社会に対して負っている責任に関する理解(技術者倫理)
以上、「日本技術者教育認定基準(PDF)」より
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つまり、「技術者倫理に関することを、確かにカリキュラムの範囲内できちんと教育している」という証明が必要なのです。
認定校の中には、ズバリ「技術者の倫理」という名前の科目を開講している大学もあります。
JABEEによってシラバスまでチェックされますから、あだやおろそかにはできません。
JABEEは1999年に設立された組織で、まだこの認定システムも始まったばかりですが、こうした取り組みが徐々に成果を上げていくことが期待されます。
考えてみればマイスター、自分が在学していた建築学科で、倫理教育らしきものを受けた記憶がありません。
いちおう人並みの倫理観は持っているつもりですが、
「建築技術者としてどんなことをすると、社会にどんな影響が出るのか」
というのは、ほんとに一般的な想像の範囲でしかイメージしていません。
例えば、実際に建築技術者が起こした問題の実例(今回の姉歯事件等)を詳細に解説してくれる機会があったなら、有意義だっただろうなと思います。
以上、今日は科学者や技術者が起こしたデータ偽造などの問題について考えてみました。
科学者倫理、技術者倫理の教育について専門的なことはよくわかりませんが、そうした教育が必要であることはおそらく間違いないでしょう。
また一方で、不正を「起こせなくする」仕組みも、やはり同じくらい臨まれていると思います。
政府も、教育機関も、専門職団体も、それぞれこうした問題に対してより厳正な姿勢で取り組んでいきたいところですね。
以上、マイスターでした。