特定の宗教に対する信仰心、持っていません。
強いて言えば、深い森や高く伸びた木立、苔むした岩などを見ると、何か霊的な物の存在を感じます。
八百万の神を信じた古代の日本人達の感覚は、わかる気がします。
しかしだからって、神道に則った儀式とは無縁の生活だし、日本神話もあまり詳しくは知りません。
「宗教」というものが人類に与えた影響について、あれこれ考えるのは好きです。
趣味の一つと言ってもいいです。歴史家の視点で見れば、宗教ほど面白い思索の対象はありません。
ただ、信仰の深い内容まで、自分でどっぷり浸かろうとは思いません。
一歩引いた目で見るから面白い、という、ちょっとずるい(?)ポジションを保っています。
かつて建築学科で学んでいた時、最も好きだった講義は、「建築史」でした。
建築史は文化史のいちジャンルですので、理工系の学科ではとても貴重な、本格的な人文科学系の内容でした。
この授業、各宗教が実際の建造物に及ぼした影響について論じるという内容が非常に多いので、文化史が好きなマイスターにとっては至福の時間でした。
マイスターが通っていた大学では、西洋建築史、東洋建築史、日本建築史などの講義が開講されていて、どれも非常に興味深かったです。
ところで、日本建築史の先生は、飛鳥時代以降に入ってきた「お寺」を、「現代で言う大学キャンパスだと思ってください」と解説していました。
これは面白い見方なので、みなさんにもちょっとだけご紹介しますと、つまり↓こういうことです。
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■聖武天皇、海外の学術を日本に導入するため、研究教育拠点となるキャンパス「唐招提寺」を創設。
学術研究の先進国である唐から、鑑真和上を総長として招き、我が国を牽引する研究組織として運営させる。
唐招提寺の奈良キャンパスは、
・学生および教員の生活拠点としての学寮
・講義の場としての講堂
などを備えた、国際派の一大キャンパスとして計画される。
※一部の講義は外国語でのみ行われる。テキスト(教典)も同様。
■その後、中央研究拠点として「東大寺」が創設される。
東大寺は学術生産の場として機能し、卒業生(僧ですね)を全国に送り出し、
国家の学術レベル向上に貢献する。
■しかし、国全体の学術レベル向上のためには、首都圏に偏った文教政策には限界がある。
そこで聖武天皇は、各地方にひとつずつ、
「国分寺」(=国立大学)
「国分尼寺」(=国立女子大学)
を開学させる決定を下す…。
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…という具合に、国家がお寺を設置する行為を、現代の大学教育政策に重ねてイメージするのです。
するとあら不思議、あっという間に理解できる古代~中世日本のお寺の実態。
仏教学をご専門にしている方からすると、説明不足なところもあるかと思いますが、本質の部分はこれで十分ご説明できていると思います。
一般社会人にとっては、お寺を理解する上でけっこう便利なフレームワークになるのではないかと思います。
この時代のお坊さんが、実にアカデミックな存在だったのですね。
実際、古代から中世にかけてのお寺の建築計画は、現代の大学キャンパスのそれと酷似しているのです。
マイスター、中学で日本の歴史を習った時はこうしたお寺の違いがよくわからなかったのですが、
この建築史の先生の説明で、あっさりイメージできました。
特に教育業界の皆様、
【お寺=大学】というイメージを持った上で、詳しい仏教関連の本を読まれると、
これまでの百倍面白く理解できると思いますよ。
オススメです。
おおっと、あんまり書いていて楽しいので、つい前置きが長くなってしまいました。
この「お寺=大学」というテーマについては、今後また改めてご紹介させていただくとして…
今回の本題に入りましょう。
【教育関連ニュース】——————————————–
■「米連邦地裁『公立校での知的計画(ID)説教育は違憲』」(WIRED NEWS:HOT WIRED JAPAN)
http://hotwired.goo.ne.jp/news/20051221202.html
・「『教育現場への知的計画説導入阻止に著作権を利用』の是非」(WIRED NEWS:HOT WIRED JAPAN)
http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20051115203.html
・「米国で、進化論教育をめぐる攻防が激化」(WIRED NEWS:HOT WIRED JAPAN)
http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20050616203.html
・「生物の教科書に進化論を疑う但し書き、保護者が提訴」(WIRED NEWS:HOT WIRED JAPAN)
http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20041112204.html
・「進化論教育をめぐってテキサス州の科学者や宗教家らが大激論」(WIRED NEWS:HOT WIRED JAPAN)
http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20030916205.html
・「進化論をめぐって揺れる米国の科学教育」(WIRED NEWS:HOT WIRED JAPAN)
http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20001010207.html
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「インテリジェント・デザイン(知的計画、ID)説」
というのをご存じですか?
なんだか妙にかっこいい響きですよね、知的計画。
「公立校での知的計画説教育は違憲」なんて、記事の見出しだけ見ると一瞬、「え?」って思っちゃいます。
しかしここで使われている知的計画だのIDだのという言葉は、非常に遠回しな表現でありまして、
この言葉が実質的に意味しているのはズバリ、キリスト教で言う「創造論」のことなのです。
無宗教なマイスターでも、
「神が万物をお作りになった」
というのが、キリスト教の教義に含まれていることくらいは知っています。
アダムもイブも、犬も猫も、ミミズもオケラもアメンボも、
創造主としての「神」が、デザインしたということになっていますよね。
こうした考え方を、「創造論」なんて呼ぶわけです。
これに対し、
ダーウィンが提唱し、現代の科学では主流になっている考え方が、「進化論」です。
サルが人間になるという、すっかりおなじみのあの説ですね。
おそらく日本人の大半は、大まかな範囲においては、進化論を信じているでしょう。
教科書にも載っています。常識になっている、と言って差し支えないと思います。
少なくともほとんどの日本人は、ティラノサウルスと同じ時代に、人間が、現代と同じままの姿で生活していたとは考えないでしょう。
しかし(基本的には)敬虔なキリスト教徒が多く暮らしているアメリカでは、
子供に教えるには、進化論は不適切で、創造論こそが臨ましいと考える勢力があるというのです。
しかも、
「公立学校の理科の教科書から進化論を削除せよ」
「進化論だけではなく、創造論についての記述も教科書に入れろ」
という意見を大まじめに主張する人がいるというのですから、日本人のマイスターなどには、にわかには信じられません。
でも現実に起こっていることなのだそうです。
とは言え、アメリカでは、公立学校で宗教教育を行うことは禁じられています。
人種や民族だけでなく、宗教的背景も多様な生徒が集まる公立学校で特定の宗教に関係する教育を行うことは、信仰の自由を妨げる行為ですからね。
以前の記事でもご紹介した通りです。
・進化論を教えないアメリカ(2005.5.22)
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/22652766.html
ですので、キリスト教の宗教観がズバリ出ている「創造論」という言葉は、さすがにどう考えてもアウトです。
そこで、前述した「インテリジェント・デザイン(知的計画、ID)説」なんて言葉が登場するわけです。
では、インテリジェント・デザイン説とは何か?
その定義を、今回ご紹介した記事リンクの中から抜粋してみましょう。
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インテリジェント・デザイン説は創造説の現代版理論で、生命は「インテリジェント・デザイナー」(知性のある設計者)によって作られたという主張を展開している。
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生命の複雑さの少なくともある部分は、超自然的な知性に由来するに違いないと考える理論
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これ(「インテリジェント・デザイン」理論)は、人類は自然淘汰によって進化したのではなく、1つの計画すなわちデザインにしたがって進歩したと主張するものだ。だがインテリジェント・デザインは、全能の創造主が万物を創造したとする「創造説」の宗教色を覆い隠しただけのものだと批判する声もある。最高裁は、政教分離に違反するという理由から、創造説を公立学校で教えること禁じている。
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いかがでしょうか。
早い話、インテリジェント・デザイン説が認められるか否かという問題は、
<生物の誕生において、「人智を越えた創造主」の存在を容認するか否か>
という問題とイコールなのです。
で、保守的なキリスト教徒の方々は、こうした説が容認されないと困るというのです。
そこで、
「ダーウィンの説では、いまだ説明し切れていないことも多い。
進化論は、科学的に完全に立証されたわけではない。
だったら、このインテリジェント・デザイン理論も、進化論と並ぶ説の一つとして、教科書で取り上げるべきだ」
という主張を展開しているわけです。
一瞬、もっともなように聞こえますが、やっぱりムチャクチャな話です。
無宗教なマイスターは、インテリジェント・デザイン説は、少なくとも科学ではないと思います。
記事を見る限り、米国の科学者達のほとんども、そう考えているようです。
少なくとも、現時点で最も科学的な裏付けが多いのは、「進化論」の考え方でしょう。
でも、
宗教的な事情は子供の教育のために重要なので、そんな科学の研究成果より優先されてしかるべきだ、
と考える親や宗教関係者はいるのですね。
そうした方々は、宗教的に都合のいいインテリジェント・デザイン説を、「進化論と同じくらい科学的な理論」として、教科書に載せたいわけです。
宗教団体や、一部の保守的な保護者達がロビイスト運動を行った結果、
教育委員会が、生物の教科書に「進化論を疑う但し書き」のステッカーを貼るということが実際に起こりました。
このときは別の保護者グループ達が教育委員会を提訴し、勝利しましたが、
「インテリジェント・デザイン説」を臨む人が、社会的に無視できないくらいアメリカにはいるということなのかも知れません。
ただ幸いなことに、アメリカは法治国家ですし、教育に関する言論の自由もあります。
そんなわけで、全米で初めて「インテリジェント・デザイン説」を生物教育のカリキュラムに導入させたペンシルベニア州ドーバー学区の行為が、連邦裁判所で違憲と判断されました。
もっとも、これで決着が付いたわけではないでしょう。
インテリジェント・デザイン説を臨む市民は今後も存在し続けるでしょうし、体裁を変えた次の「インテリジェント・デザイン説」が登場するかも知れません。
それに、おなじみブッシュ大統領の支持層は、こうした保守的なキリスト教徒です。
■「ブッシュ政権と科学界の対立、2期目はどうなる?(第1回)」(WIRED NEWS:HOT WIRED JAPAN)
http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20041124304.html
この記事の中で、
-ブッシュ大統領の再選をキリスト教保守派が後押ししたことで、大統領は支持者を満足させるため、筋金入りの保守派を裁判官に任命しなければならないと感じるはずだ-(上記記事より)
と、米国立科学教育センターの責任者ユージニー・スコット氏は指摘しています。
裁判官を大統領権限で替えられたら、違った裁判結果が出ていたかも知れません。
それにアメリカは陪審員制ですから、保守的なキリスト教徒が陪審員に混じったら、やはり結果は変わります。
そんなわけで、インテリジェント・デザイン説が、今後も何かの形で浮上してくる可能性はあるのです。
アメリカでは、宗教や、政治の事情が、教育に影響を与えかねないみたいです。
これが「国語」や「歴史」のような科目の話であれば、(日本を含め)どの国でもある程度の範囲で起こり得ることだと思うんですが、
「生物」の学習内容だというのですから、なんだか恐ろしい話です。
大統領が替わるごとに、生物学教育に関する見解が変わるのでしょうかね…?
マイスターは、生命倫理や宗教学に関する専門知識を持ち合わせていないので、実際に起きた出来事をご紹介することしかできませんが、
教育の公共性というものを考える上で、宗教や信仰というのは、避けて通れない問題だと思います。
みなさんは、このアメリカの動き、どのように思われますか?
最後に、オマケとして。
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■「現代の魔女狩り? 米国で「問題本リスト」に載る『ハリー・ポッター』」(WIRED NEWS:HOT WIRED JAPAN)
http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20011116202.html
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なんと、あの『ハリー・ポッター』も問題本扱いです。
教育に悪い? どこが?
それは、「反キリスト教的」なところです。
-全米の保守的な地域では今も、修行をする魔法使いの物語は反キリスト教的と見られている。
ジョージア州イーストマンの日曜学校の教師で、3児の母でもあるビバリー・グリーンさんは、「『ハリー・ポッター』は、娯楽としてなら少しくらい魔法をやってみてもいい、とそそのかす」と語る。「善でなければ悪。中間なんてない。邪悪の精神をちょっとでもかじりはじめたら、危険のもとだ。家や自分自身を、悪魔からのあらゆる攻撃にさらすことになる」-(以上、上記の記事より)
こんな意見を持つ親もいるのですね…。
そう言えば、日本の『鉄腕アトム』は、アメリカでは『アストロ・ボーイ』という名で知られていますが、アトムも実はこうした攻撃の対象になっていると聞いたことがあります。
ロボットであるアトムを作ったのは、天馬博士ですが(お茶の水博士ではないので、間違えないように)、キリスト教的には、人間に似せたものを人間が作るという行為は、創造主である神を冒涜する行為であるという理由でNGなのです。
おまけにアトムは、自分と人間との違いに悩むような、アイデンティティを持ったかなり人間に近いロボットですから、なおさらマズイです。
アメリカの映画やマンガには、「人間っぽいロボット」がほとんど出てきませんが、それはこういう文化的背景もあるらしいです。
マイスターが子供の頃、「トランスフォーマー」というアメリカ発のアニメが日本でも放映されてましたが、今思うと、トランスフォーマー達を「作った」人々というのは、一切出てきませんでした。
実は、トランスフォーマーはロボットではなく「超ロボット生命体」である、という設定なのです。
生命体なら創造主が作ったことになるのでOKという、すっごい細かい配慮があったわけです。
唯一と言っていい例外が『スター・ウォーズ』のC3POだと思いますが、もしかするとあの金ピカも、陰口をたたかれているのかも知れません。
ただでさえ、幸薄そうなキャラクターなのに、ちょっと気の毒です。
そんなわけで、今日はなんだか盛りだくさんでまとまりのない内容になった気がしますが、いかがでしたでしょうか?
宗教と教育については、今後も、考えていきたいと思います。
みなさんのご意見もお待ちしています。
以上、マイスターでした。
はじめまして
TBありがとうございました。
上原さんより8日の懇親会にお越しいただけると聞いて楽しみにしております。
では
インテリジェント・デザインを検索して、覘かせていただきました。
友人のクリスチャンも創造論からのインテリジェント・デザインを話してくれました。
ただ、やはり科学的でないこと。
彼は教員志望であるため、学校の授業のような公的な場で宗教を含めた教育をしてはならないことを理解してもらわなきゃまずいと思います。