実際、こうした授業は、受講生の数も多いです。
理論的な話だけでなく、必ず「実例」を紹介し、検討するという過程が入りますから、見ていて飽きません。
自分の好きな企業のCMを授業で分析するのは、楽しいものです。
この分野に熱心な大学だと、広告クリエイターを呼んで講演してもらう機会もあるでしょう。
大学院のときに、マイスターもこういった授業を受けました。
あまりに面白かったので、そのころから『宣伝会議』のような雑誌や、佐藤雅彦さんの著作を買って読むようになりました。
そこからだんだんマーケティングや流通の仕組み、コンテンツビジネスなどに興味が広がっていきましたので、やっぱり広告やブランド論の授業を受講して正解だったと思います。
結果、広報プロデューサーになってしまったくらいですから、やはり面白い授業ひとつが人生を変えるものですね。
そんなわけで、今日のテーマは「大学のブランディング」ですよ。
まずは、この2つのページをご覧下さい。
http://web.archive.org/web/20041019005332/http://www.meijigakuin.ac.jp/
<2004年11月(web.archive.orgに保存されていた過去のwebサイト情報より)>
↓
http://www.meijigakuin.ac.jp/
<2005年11月>
これは、明治学院大学のwebサイトです。
リニューアル前と、リニューアル後を比較してみました。
いかがでしょうか?
マイスターはまず、「大胆に変えたなぁ」と感じました。
新しい現行のwebサイトでは、目にも鮮やかなイエローと、ページ上部の大学ロゴが際立っています。
そしてレイアウト。昨今の大学サイトがどんどん高機能&複雑なデザインになっていくのとは対照的に、ぐっとシンプルに作っているなと思います。
むしろ、「シンプル過ぎる」と言われそうな勢いです。
これは明治学院大学が進めている、「ブランディングプロジェクト」の方針によるものだと思います。
■「 ブランディングプロジェクト」(明治学院大学)
http://www.meijigakuin.ac.jp/branding_project/
広告雑誌などでも取り上げられているので、ご存知の方も多いかと思いますが、
明治学院大学は、今をときめくアートディレクターの佐藤可士和氏を迎え、大学のブランディングを行っているまっ最中なのです。
佐藤氏の経歴は、上記のページに掲載されています。
「♪こどもといっしょにどこいこー?」
という「ホンダ ステップワゴン」のCMをはじめ、
キリンビールの「極生」、「生黒」、
赤・青・黄でデザインされたsmapのキャンペーンなどで知られています。
商品開発からグッズやパッケージのデザイン、店舗、建築、広告キャンペーンまで幅広く手掛けるアートディレクターです。
仕事の幅が非常に広いのですね。
もともと広告代理店の博報堂で働いていた方ということもあって、購買行動についてよくわかっているな、という印象があります。
誤解されている方がいるかもしれませんので、念のためご説明しておきますと、
アートディレクターというのは、ただ見た目をキレイにデザインするだけが仕事ではありません。
プロのアートディレクターが優れているのは、デザイン能力だけではありません。
購買行動の仕組みや、世の中の流行、マーケティングデータなどについての知識も豊富です。
消費者の視点でものを見る感覚も鋭敏です。
そして、そうしたスキルを武器にして、
「誰がこれをほしがるのか?」「なぜ、こうしたサービスを提供するのか?」
といった、製品・サービスの理念やコンセプトを設計するところに関わります。
そうして設定されたミッションをもとに、
製品やサービスを、いつ、誰に、どこで、どのように提供していくか、どのように見せるか、というプランを立てます。
最終的にデザインにする過程は、その後です。
最終的な成果は「カタチ」で問われるわけですが、「カタチにする作業」はアートディレクターの仕事の一部分でしかありません。
そんなアートディレクターとして、今、最も注目されている佐藤氏。
「大学のブランディング」にとって、これほど心強いパートナーはいません。
ちょうどマイスターが大学に転職したころ、この明治学院のプロジェクトがスタートしたのを知って、唸った記憶があります。
明治学院大学が、なぜ佐藤氏を起用して、ビジュアル面を含めた大学ブランディングを進めることにしたのか、そのあたりの経緯は、以下のページに書かれています。
・「『明治学院大学ブランディングプロジェクト』の趣意」(明治学院大学学長 大塩武氏)
http://www.meijigakuin.ac.jp/branding_project/message.html
そして以下に、佐藤氏のインタビュー記事が掲載されています。
これは、教育機関のマネジメントに関わるすべての方に、読んでいただきたい文章です。
マイスターも同じようなことを常日頃から周囲に訴えているつもりですが、佐藤氏の言葉の方が多分、何倍も説得力を持っていると思います。
・「佐藤可士和氏インタビュー」(明治学院大学 ブランディングプロジェクト)
http://www.meijigakuin.ac.jp/branding_project/interview1.html
以下、ちょっとだけインタビューの内容をご紹介させていただきます。
-(問い):佐藤さんは多くの企業の広告を手がけていていますが、今回、教育機関をデザインすることになりました。企業と教育機関の違いについて感じていることがありますか?
(佐藤可士和氏)):
教育機関は、企業と違って危機意識があまりないことが大きな違いですね。今まで必要がなかったかもしれないけれど、少子化や学校の数も増え、選ぶ時代から選ばれる時代になってきています。企業も商品を出せば売れるという時代ではないことに早々に気付いて、それこそ生活がかかっていますから広告・イメージ戦略に懸命に取り組んでいます。教育機関では、何となく心配はしていても、それだけ。
そんな中で、明学のこのプロジェクトは、革新的な動きといってよいと思います。 –(「佐藤可士和氏インタビュー」より)
インタビューの最初で、いきなりズバリ指摘しています。
そうっスよね!
ほんと、マイスターもそう思います。
というか、心の中でそう思っている人、たぶん業界にいっぱいいます!
そう思って、佐藤さんと同じようにがんばって進言したりもしてみるんですが、マイスターみたいな馬の骨(多分そう見られていると思う)が言っても、エライ人は誰も聞いてくれないんスよー。
もっと言っちゃってください佐藤さん。ボクらの代わりに。
–アートディレクションやデザインはコミュニケーションの一つのツールと考えています。社会との色々な関わりで、企業は様々な媒体を使ってコミュニケーションを試みています。それに比べ教育や医療はコミュニケーションする気が薄く、待っていれば人が来てくれるという受身の態勢ですね。そのため、自分からのアピールが少なく、外から見てそれぞれの特徴や理念が良くわからないという状態です。でも、人間にとってビジュアル・見え方から受ける印象は大きなパーセンテージを占めるとすれば、これに手をつけないのはもったいないなぁと思います。見え方を工夫すればもっと良く伝わると思います。–(「佐藤可士和氏インタビュー」より)
そうなんスよ。
ほんと、もったいないだらけの業界なんスよ。
思わず、先輩に愚痴を言う後輩みたいな口調になってしまうっス。
–教育について言えば、カリキュラムや授業内容を改善するのは勿論だけれど、別のアングルから学校を良くすることだってできます。例えば、快適な教室で授業を受ければとても気持ちいいし、環境をデザインすること、整備することで効率が良くなることはたくさんあると思うんです。自分の大学を好きになるようなこと、大学に誇りを持って、ここの学生であることが楽しければ、自ずとモチベーションが高まり、大学を良くすることに繋がります。そんな貢献ができれば良いと思っています。
人って見えるものから受ける影響は大きく、逆を言えば、見えたことしか理解できない。だから、「見かけ」は大切です。その「見え方」をコントロールするのがアートディレクションです。
明学について言えば、良いところがあるのに正確にアピールされていない。言ってみれば過小評価されているように見えます。見えていない部分、使っていない部分をアピールすることで、明学に対するポテンシャルは倍増します。–(「佐藤可士和氏インタビュー」より)
それ聞いてもらえないんスよー(T_T) 特に教員のセンセイ方にー。
ポテンシャルはすっごく大きなものを秘めている大学とか、あるんですけど、潜在させたまま何十年も放置してるんスよー。
マイスターが言っても「若造めが何を言う、何もわかっておらぬくせに」みたいな反応なんスー。
(きっと、同じように苦労されている職員さん、いますよね? ね?)
本来持っている力を、ビジュアルで目に見えるように表現する、って、自分、すっごく基本的なことだと思うんスけど、大学人はそういう考え方が嫌いみたいなんでやんす。
おっと、キャラ変わっちまったでやんす。
………あんまり引用して「佐藤さんとマイスターの対談」みたいにすると、明治学院大学さんに怒られますので、この辺にしておきます。
佐藤氏が言われている通り、このブランディングプロジェクトの経過はそのつどwebに掲載され、
プロジェクトの経過自体が一種の広告効果を生み出しています。
一流のアートディレクターによって、母校が変革していく時間を、学生さん達は共有しているわけです。
おそらく佐藤氏は、これまで「ガラッと変える」「いきなり世の中に披露する」というプロジェクトに多く関わっていたんじゃないかと思います。
佐藤氏にとっても、時間をかけてじっくり進めていく明治学院の仕事は、新境地を開くきっかけになるかもしれませんね。
さて、プロジェクトが始まってちょうど1年。
マイスターが最初に見たときには、佐藤氏のインタビューしか掲載されていなかったwebサイトも、すっかりコンテンツが増えたようです。
明治学院の歴史をひもとき、「明治学院らしさ」を抽出し、慎重にロゴデザインなどにつなげていく過程が、サイトに掲載されている記録から読み取れます。
「ブランディングプロジェクトに対するグループインタビュー実施(在学生)」なんてことも実施していますね。
企業がひとつの製品を売る場合ですら、こうした取り組みは行われます。
歴史を継承していく大学なら、いわずもがな。
世間で革新的と思われている人ほど、実はこういうことを丁寧にやっています。
本当のアートディレクションを行うには、膨大なコミュニケーションが必要不可欠です。きっと佐藤氏はこの1年間の間、多くの時間を明治学院大学とのコミュニケーションに充てたことでしょう。
教職員や学生と会って話す、だけでなく、キャンパスの建物の表情を読み取ったり、明治学院の歴史記録を読み解いたりするのもコミュニケーションの一環です。
代理店が持ってきた提案を、理事会などのエライ人達だけが検討して決めちゃっている大学、ありませんか?
安易に決めてしまった案はおそらく20年、50年という時間に耐えられません。
大学のように長い時間で考える組織にこそ、優秀なアートディレクターが必要なのでしょうね。
さて、佐藤氏は1年かけて、明治学院大学のブランディングに必要な土台を作りました。
いや、
もとからあったけど埋もれてしまっていた土台を掘り起こして、
しかるべき場所に、
しかるべき意味を与えて設置した、
という表現が正しいでしょうか。
佐藤氏が丁寧に設計したブランディングプランが活きてくるのは、これからです。
今後、明治学院大学のあらゆるビジュアルに関して、このアートディレクションが適用されていくことになります。
–「社会とのコミュニケーション手段として、明治学院大学の全てをアイコンに置き換える、これがデザインです。
(略)
数年たって、「明治学院大学卒です」って言われたときに、世の中の人が「あー、ああいう学校ね」と、納得のできる共感イメージを持てるようになっていることですね。」–(「佐藤可士和氏インタビュー」より)
と、佐藤氏はインタビューで述べられています。
この目的を達成するために、今後ずっと、あらゆるシーンで、
佐藤氏の設計した「明治学院らしさ」が表現されていくことになるのでしょう。
今後の明治学院に注目です。
最後にひとこと。
本学にも来てくれ佐藤可士和さん!
一刻も早く、佐藤氏のように優秀なアートディレクターの意見を、自分の勤め先(埋もれっぱなしのポテンシャル多し)にも導入したいと考えるマイスターでした。
はじめまして4ヶ月ほど前から拝見させていただいております。
私はある私立高校の広報担当です。身分は教諭で広報のほかにクラス担任や部活顧問なども受け持っています。
高校のニーズ掘り起こしはは大学のニーズと違う面を持っています。大学選びは受験生が主体となることが多いようですが、高校選びは「親のニーズ」「子供のニーズ」「中学校のニーズ」が複雑にからみあって決まるため、広報活動が非常に難しいのです。「親のニーズ」と「子供のニーズ」が必ずしも一致しない場合もあり、策をひとつ間違えるととんでもないことになってしまいます。
マイスターさんの記事は非常に参考になりますのでこれからも楽しみにしています。
はじめまして!
TBありがとうございます。こちらからもTBお願いします。
大学のイメージ戦略から、志望者が増え、学生の質の底上げになれば、学校経営には有意義だと思いますが、入ったあとの講義の内容が旧態依然していたらやっぱり駄目なような気もします。先端研の番組を見て、教授の先生方の指導内容にも興味を持ちました。外箱と中味が一致してこその改革!一層のご活躍をお祈りします。
高校広報担当さま:
はじめまして、マイスターです。いつもブログを読んでいただき、ありがとうございます!
私も、高校の広報は、大学よりも複雑で困難な仕事だと思います。
「親のニーズ」「子供のニーズ」「中学校のニーズ」すべてを把握する大変さは、想像を絶します…。
学校によっても色々でしょうが、やはり中学校のニーズというのは相当に大きいのでしょうか?
ぜひ、高校広報について、色々とご意見等いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします!
A・C・O さま:
はじめまして。マイスターです。
非常に参考になる記事でしたので、TBさせていただきました。
先端研の番組を見逃していたので、助かりました。
確かに、ブランディングが実力(教育力、研究力)に伴ってない学校もありそうです。
少し前、「ブランドは広告でつくれない」という本が広告業界の人間を中心にヒットしていたのですが、実力以上のブランドを広告やPRでつくることは、やっぱりできないのですよね。
無理をしている大学と、実力を正しく表している大学で、いずれ違いが出てくるのでしょうね。
大学こそ、ブランディングが必要ですよね。
“良いところがあるのに正確にアピールされていない。言ってみれば過小評価されている。”
このコトバが全てを語っているように思います。
ビジョンがないところには何も生まれませんが…。
TBさせていただきました。
”ポチッ”と応援です!
ボブ田中さま:
マイスターです。コメント&TB、ありがとうございます!
ブログ、拝見いたしました。
「ブランディング・コミュニケーター」という視点は、確かに、今後あらゆる組織で必要とされてくると思います。
高い研究力・教育力を実力を持っているのに、評価されていない大学が少なからずあります。そうした大学では往々にして、ブランディングが軽視されています。不幸なことです。