塾や企業が、「総合学習」を展開する動き

自分が通っていた高校には、「総合」という授業があった、マイスターです。

今から20年以上も前、学校創立時から「総合」の授業を開設しているとのことですので、割と先進的な試みをしていた学校だったのかもしれません。

ちなみにマイスターがその高校で経験した「総合」は…

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<1年生>
○家族や親類などへのインタビューなどを行いつつ、自分史をまとめる。(原稿用紙100枚とか、えらい枚数)
○家を1軒、設計

<2年生>
○自分の住んでいる家の周囲400m四方について、国土地理院の地図を元に、明治・大正時代の状況と現在との状況を比較。実際に夏休みを使って現地を隅々まで調査し、レポートをまとめる。
○学校がある自治体の治水事業や、環境保全事業について、チャリで実地調査。
○「日本一汚いとよく言われている某沼」の鳥類をカウントしまくる
○パソコンを使ってプログラムを作成(注:まだwindows95もない時代です)

<3年生>
○様々な社会人の方を講師に招いた講座が10数種類開設され、自分の好きな講座を選択して学ぶ。
※「建築デザイン」の講座を選択しました。大手ゼネコン設計部で働く現役建築士が講師で、雑誌に掲載されている建築の空間分析や模型作成(大事な受験生の夏に模型材料にまみれていた俺…)やら、建築家本人による作品解説やら、ゼネコン設計部見学やら、いろいろやりました。
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…と、こんな感じの内容でした。

あくまで、この高校がゼロから開発した「総合」という科目ですから、
今現在、小中学校で実施されている「総合的な学習の時間」とは、
似通っている部分もあるし、ちょっと違う部分もあると思います。

ただ、現在の「総合的な学習の時間」が標榜しているような、
教科学習だけでは得られない「調べ、分析し、まとめる」力は確かに付いた気がするし、
普段なかなかできない体験を通じて、社会の一面を知ることができたようにも、思います。

自分自身で経験して思うに、
なんのネットワークもない学校が、突然ここまでの学習体験を提供できるかというと、正直、難しいんじゃないかな、と。

ましてや小学生に対して、
自分でテーマを見つけて調べ学習をさせたり、
大勢の前で発表させ、議論させたりとなると、
おそらく、かなりの指導力が求められることでしょう。

学習指導要領の内容を漏れなく、同じペースで教えるのが教育だ、
なんて思ってやってきた教員では、太刀打ちできないのも無理はありません。

地域のごみ拾いをさせるだけだったり、
商店街をさーっと歩いて見学して、感想文を書かせて終わったり、
お上が提示した「例」を、何の工夫もなくみんな一斉に真似したり、

そんな「総合学習」のケースが、一時期、報道されましたね。

総合学習においても今ひとつさえない学校の指導力を背景に、
企業も、動き出しています。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「新教育の森:『生きる・考える力』も売ります!? 民間が公教育に挑戦」(毎日新聞 MSNニュース掲載)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/archive/news/2005/10/10/20051010ddm004040187000c.html
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以前書いた記事

・学力向上には、学校よりも塾を信用する保護者が多い!
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50067337.html

でもご紹介したとおり、学力向上のための指導力では、学校よりも塾の方が保護者に信頼されているというデータがあります。
それだけでなく、学力以外の面でも、学校の教員について

 「学習以外での対応力不足」 …52%
 「責任感の欠如」 …49%

のように親は感じているのだとか。
学校の信頼は失墜している状態です。

総合学習にも塾が本気で進出してきたら、学校の立場はいっそう脅かされることになるんじゃ?
なーんて考えてしまう報道ですね。

世間の学校不信は、企業にとってはチャンスと見えるのでしょう。

1:自ら総合学習的なプログラムを展開し、子どもと保護者の囲い込みを狙う

2:総合学習的な学びを欲する保護者や子どもに、情報を提供する

3:総合学習に悩む教員をサポートする事業を行う

など、多くの取り組みが企業によって行われています。

冒頭の報道記事で紹介されているのは、進学指導塾「サピックス」の試み。
「エコロジー」に焦点を当て、外部の講師による講座を行うというもの。

■「サピックスecoクラブ」(SAPIX 株式会社ジーニアスエデュケーション)
http://www.sapientica.com/sapix/00event/0001sec.html

これは、「総合的な学習の時間」とは似て非なる取り組みです。
確かに、講座のテーマは「環境」という、いかにも総合っぽいものですが、

本来の総合学習は、「自分で調べる」「体験する」「発表する」といったプロセスを重視し、
そうした主体的な行動の積み重ねで子どもの「生きる力」を育てるのが特徴です。

いくら専門の講師が巧みな講演を行ったとしても、それは受身の情報。
会議室で話を聞くだけでは、生きる力は身につきません。

しかし、だからといってもちろん、この取り組みが無意味というわけではありません。

普段聞けないような、臨場感たっぷりの話を、直接講師から聞けるという体験は、非常に意義深いものです。
参加した子ども達は、さぞ、わくわくすることでしょう。
環境についての関心を育てる、絶好のきっかけになると思います。
私も、もし子どもがいれば、ぜひ参加してみたいと思う講座です。

このサピックスの取り組みは、学校での総合学習を相互に補完するようなものかな、と思います。

この他にも、塾主催で理科実験を行ったり、郊外に出かけたりするところがある、
という話は、しばしば耳にします。
やはり、小中学校の教育に関して最も過敏に反応するのは、学習塾なのですね。

「調べ学習」の指導を行うような塾や、子供同士でディスカッションを体験させるような塾も、そのうち、出てくるかもしれませんよ。
(もうあるかも知れません)

総合学習をサポートするための取り組みは、様々な企業が行っています。
代表として、以下のサイトをご紹介します。

■「探検キッズ」(松下電器産業株式会社)
http://www.discovery.panasonic.co.jp/index.html

「探検キッズ」は、松下電器産業が運営している、子供向けのwebサイトです。
かなりの情報量があるサイトで、イラスト、アニメーション、画像、テキスト情報などがふんだんに盛り込まれています。

トップページには書かれていませんが、「先生方へ」のページには、以下のように総合学習の支援サイトである旨が明記されています

-21世紀社会における新しい教育の時代に貢献するものとして、総合的学習の重点テーマである「国際理解」「情報」「環境」「健康・福祉」「地域社会」に関する素材とテーマ発見の機会を提供すべく、「Panasonic World of Discovery 探検キッズ」を開設しています。

また、学習のプロセスである「興味・関心」、「調査・取材・体験」、「まとめ・発表」のプロセスに沿ってコーナー(サイト)を編成しております。当サイトではテーマ発見のために、子どもたちにとって安全で役立つリンク集や学習レポートに引用しやすいテキストコンテンツなども用意しております。-(「先生方へ」より)

家電・AV機器メーカーとして、電気系を中心に、調べ学習に役立つ理科系の情報をまとめているほか、
夏休みの自由研究、ものづくり、家庭でできる実験などを紹介するコンテンツもあります。
発表のコツを紹介するコンテンツもあるあたり、なかなか、意識的です。

また、実際に松下グループが行っている親子対象の体験教室などへの誘導もあります。

そして、教員向けと思われる、授業カリキュラムへの展開例も!

・探検キッズを使った総合学習授業の試み
http://www.discovery.panasonic.co.jp/info/teachers/guide010.html

「探検キッズ」は、子ども・保護者への情報提供と、教員への情報提供、という2つの目的で運営されているようですね。

そして、現在も、かなり頻繁にコンテンツが追加されたり、メールマガジンが発行されたりしているようです。

これだけの事業にはそれなりの費用もかかると思いますが、このサイト自体が何かの利益をもたらすことは考えてにくいです。
それにメディアを使っての派手な広報も行っていませんから、サイトの知名度だってまだまだです。

それでも松下グループにとって、このサイトを継続する価値があるということなのでしょう。
企業としての意気込みが伝わってきます。

以上、2つの事例をご紹介しました。
営利企業が行っているわけですから、慈善ではなく、それなりの狙いがあるのだと思いますが、
企業の取り組みの中に、公立学校の授業がかすむような、すばらしい事業を見かけることがあるのも事実です。

学校の先生も、

「企業は学校とは関係ない」

「あいつらは結局、営利でやっているんだ」

なんて居直るのではなく、企業の取り組みであっても参考にすべきところは参考にしていいのではないでしょうか

学校の先生は、こうした企業の取り組みに対して、少々、関心をもたなすぎるように思います。
意識的に、無視をしているのかもしれませんが、それではもったいなさ過ぎる。

企業がはじめた取り組みであっても、それが子どものためになるなら、積極的に問い合わせをしたり、助言をもらったりすればいいのです。
企業だって、(ほとんどの場合)それを望んでいるはずなのですから。

もし自分に子どもがいたら、学校だけにこだわらず、知的刺激になるものは何でも体験させてあげたいと思うマイスターでした。