今日は5時に起きて、1日、炎天下の下に立っていたマイスターです。
「日焼け」というものの存在をすっかり忘れていました。
何も対策をしてなかったせいで、現在、腕と首が煮えたぎってます。
特効薬(=冷えたビール)を飲まないと、死んでしまうかも知れません。助けて。
普段、どうしても
「教育のこんな問題点を指摘ぃ!」
みたいな記事ばっかりになってしまうので、
今後は、優れた教育の実践事例や、ユニークな取り組みの紹介なんかもどんどん入れていきたいと思う今日このごろ。
というわけで今日は、研修前にお約束していた、アメリカのチャータースクールを一校、ご紹介します。
※チャータースクール制度についてご存じない方はこちらをご覧ください。
<今日の学校>
■Minnesota New Country school(ミネソタ・ニューカントリースクール)
http://www.mncs.k12.mn.us/
チャータースクールは、「市民や教員が、自分たちで教育の内容を決めて、自分たちで設立・運営できる公立学校」だと以前、ご紹介いたしました。
今回ご紹介する「ミネソタ・ニューカントリースクール」も、そんなチャータースクールのシステムを存分に活かして作られています。
学年的には、日本で言えば、中学~高校の6年にほぼ相当します。
まずは実際に、同校の一日の様子を知っていただきましょう。
webサイトに、「Typical School Day(典型的な、学校での一日)」という項目があります。
————————————
8:30 – 9:00 is advisory group and announcements
(日本でいうHR)
9:00 – 10:00 is math time
(数学の学習)
10:00 – 11:30 is Independent Work Time
(個人ごとに進める作業の時間)
11:30 – 12:00 is Lunch
(昼食)
12:05 – 12:45 is Silent Reading
(静かに読書する時間)
12:45 – 2:45 is Independent Work Time or Project Time
(個人ごとに進める作業の時間、またはプロジェクトの時間)
2:45 – 3:00 DTL’S (Documentation of Time and Learning) which means you have to take notes and write down everything you did during the school day.
(その日に自分が行ったすべての作業を、ノートに記録する時間)
3:00 – School dismissed.
(これで学校はおしまい)
(以上、http://www.mncs.k12.mn.us/about/index.html#dayより引用)
————————————
数学以外は、授業らしい授業がないと思いませんか。
実はこの数学も、生徒同士でわからないところをともに教えあいながら学ぶ、「自習」に近い形式で進められています。
つまり、先生が行う「授業」は、ゼロです。
ここから、校舎内の写真を見ることができます。
↓
・校舎のバーチャル・ツアー
http://www.mncs.k12.mn.us/tour/index.html
中央の写真をクリックしていくと、画像が順にかわっていきます。
どうです?
私達が見慣れている、
「黒板に向かって、机と椅子がならぶ」
という形式の教室が全然無いことに、気づかれますか?
秘密は、この学校の教育スタイルにあります。
ミネソタ・ニューカントリースクールは、独自の「プロジェクト学習」で知られています。
これは生徒各自が、自分の興味から自らプロジェクトを立案し、その中で必要な教科を学んでいくというものなんです。
教師は、学びのアドバイザー、サポーターに徹するのです。
たとえば、「グライダーについて、興味がある!」という生徒がいたとしますね。
グライダーが、どうして飛ぶのか、調べてみたい!
そんな相談を、教師が受けたとします。
この生徒は、グライダーを自分の「プロジェクト」の主題にしたいようですよね。
そうしたら、以後の学期中、この生徒は他の学校の子供が受けるような講義は一切やらず、グライダープロジェクトについての学習だけを進めていくのです!
しかも、自分で!
さぞ、子供はモチベーションを発揮して、プロジェクトに取り組むことでしょう。
でも。
好きなことに打ち込むのも大切ですが、生徒にとって大事なのは、他にもありますよね。
たとえば「理科」や「社会」。
こうした、教科の基礎学力を身につけることだって、大切です。
体育だって、図工や美術だって、大事です。
人と協力して物事を進めたり、地域の人とふれあったりすることも大切ですよね。
ミネソタ・ニューカントリースクールのユニークさは、こうしたところの解決法にあります。
ミネソタ・ニューカントリースクールの先生なら、
「グライダーが好きなんだ、どうして飛ぶのか、調べたい!」
と生徒に相談されたら、たとえば、こんな風にアドバイスするのです。
「それはいい!
じゃあ、実際にグライダーを見られるといいかもね!
ところで、グライダーって、どこで見られるのかな?」
「グライダーは、どんな材料でできているんだろう?
どんな人たちが、どこで作っているんだろう?
実際に、グライダーを作っている人たちに、会いに行ってこないか?」
「グライダーと、普通の飛行機の違いって、何かな?
グライダーが飛ぶ秘密は、どのへんにあるのかな?」
「グライダーは、そもそも、いつごろから使われるようになったか、興味ない?
どういう用途で、使われ始めたのかな?
発明したのは、誰なんだろうね? 調べてみない?」
「グライダーの飛行原理はわかってきた?
じゃあ、それを、イラストにして説明できるかい?」
「実際に、原理を元に、グライダーの模型を作ってみると、
その原理が確かめられるかも知れないぞ!?」
…などなど。
もうお気づきですか?
上記のようなアドバイスを受け、一つ一つグライダーについての疑問を解決していくうちに、自然と生徒は
「地域の産業」
「ものの材料についての科学」
「動力機械の仕組みと、比較」
「歴史」
「(簡単な)空気の力学」
などなど、様々な教科学習をしているのですね
同校の教師がすごいのは、
1人の生徒が卒業まで毎年取り組んでいく様々なプロジェクトに、
通常の公立学校の学習範囲をすべてクリアするような学習を、
見事に全部、ひもづけするところです。
「自分の好きなことを先生に提案して、
好き勝手に取り組んできたら、
卒業する時には、他の学校に行ったヤツと
同じ範囲の勉強をしちゃってたよ」
という状態です。
…信じられますか!?
まさに、匠の技!
学習すべき教科の内容がすべて頭に入っている…だけでは、こんな芸当はできません。
その地域に、どんな産業があって、どんな人間がいるか。
どんな分野を調べると、どんな知識やスキルが身に付くか。
そうした多くの知識を常に頭の中に入れておいて、生徒が質問してきたら、すぐに取り出し、アドバイスとして提案できなければなりません。
アドバイスといいつつ、教師の頭の中で実際に行われているのは、カリキュラム構築作業というわけです。
実際には、普通に講義を受けるより、はるかに豊かな学びができているはずです。
インターネットに接続されたコンピューターを用いての制作作業などは、同校の生徒が得意とするところです。
また、各プロジェクトの途中で必ず外部に調査に赴き、フィールドワークやインタビューを行うことが「義務付けられて」いるんです。
プレゼン能力、コミュニケーション能力なども、鍛えられます。
1995年から同校で行われているプロジェクトに、カエル・プロジェクトがあります。
1995年にミネアポリスの川に棲むカエルの奇形を発見したこのプロジェクトは州議会で取り上げられ、議会で生徒が証言することにもなりました。
このニュースは全米に報道され、ミネソタ・ニューカントリースクールの名をとどろかせたのです。
教師のほとんどは、この学校を強く希望して、働いているそうです。
公立学校ですが、遠方から訪れる教師や、生徒も、少なくありません。
教師の能力次第で、公立学校でも、こんなにオリジナリティあふれる教育ができるんだ、という好例です。
いかがでしょうか?
マイスターは、実際にこの学校を見に行ったことがあるのですが、
日本でも、こんな自信と熱意にあふれた先生達がいるはずで、
そんな先生が、自分たちの責任で教えてくれる公立学校を自由に作れるようになったら、
すばらしいよな、と思いました。
というわけで、今日の学校紹介は、
<ミネソタ・ニューカントリースクール>でした。