「IT経営人材」不足に悩む欧米企業

ひまにあかせて、マンガ『銀河鉄道999』(文庫版・全12巻)を全巻ぶっ通しで、一日で読むという偉業に挑戦したマイスターです。
これまでちゃんとストーリーを知らずにいたので、いい機会だと思って。

どんな物語かご存じの方ならわかると思いますが、いっき読みには向いてないです、このマンガ。
途中、胸ヤケがしたり、ずーんと落ち込んだり、人生考えさせられたりすること多数。
『火の鳥 未来編』みたいな話が毎回違う星で繰り広げられてる状態です。

読む前と比べて、半日でいっきに大人になってしまったような気が!
そんな夏の日。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「オフショア化の皮肉――IT人材不足に悩む欧米企業」(ITMedia News)
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0507/21/news070.html
—————————————————————

-Forresterは報告書をまとめるに当たり、48の企業と13の大学・技術専門校に聞き取り調査を行った。同社によると、教育機関はIT系のカリキュラムに手を加えて新しいニーズを盛り込み、IT/ビジネスアナリスト、システムアーキテクト、エンタープライズプログラムマネジャー、ベンダーマネジャーといった職を担える卒業生を送り出す必要がある。

 つまり、技術系の講座にビジネス、マネジメント、財務、契約などの科目も加える必要があるということだ。Forresterの調査では、企業の90%までが、IT系カリキュラムにおける指導不足と講義内容の浅さに不満を訴えている。-(上記記事より)

社会から、大学に向けてのメッセージ。

米国は、社会の需要に対応して、大学の学科構成やカリキュラムが、結構よく変更されます。

その一例なのですが、日本では多くの大学にある「経済学部」。
実はアメリカの大学では、現在、「経済学部」なんてほとんど見かけません。

(諸星裕氏は、「ゼロになった」とおっしゃっていましたが、そこまではまだ確認していません。
 ただ確かに、webサイトをまわって調べてみても、見かけません。本当に絶滅したのかも

アメリカの大学の経済学部は、みんな、ビジネスやマネジメントを教える学部に変更されたのです。

日本だと、一度作った学部をなくすことは、まずありませんよね。
それは、

・せっかく文科省から認めてもらった定員を減らすなんて、あり得ない
・経済学の教員が職を失ってしまうので、教授会でそんな提案は通らない

という2つの理由によるところが大きいです。

もちろん建前として、

「学問は、そんなにコロコロ変えていいものじゃないんだぁ!」

という言葉なんかが出てくると思いますが、実際には、違います。

マイスターの大学ではありませんが、ある大学が環境マネジメント系の学科を作ったとき、その理由を聞いて仰天したことがあります。

「建築や都市計画の教員が余ったから」

とのことでした。

ひえぇ。

学問の真理を追究する姿勢ではありません、これ。
どう考えても、教員の都合で学科を編成してます。

まぁそんなわけで、日本では主に大学と教員の都合で学部学科が編成されますが、
アメリカでは割と、社会の都合で学部学科が変わります。

当然、教員の人材流動性が高いことも、その背景にあります。
日本みたいに、終身雇用にしがみつくしかなくて、その上自分の専門にこだわってばかりの教員がいっぱいいたら、学部の内容を取り替えるなんて、できませんからね。

記事の内容に戻ります。

アメリカでは、ITの開発人材を海外に依存させていった結果、本社でITを取り仕切れる人材が不足してしまったのです。

※「オフショア化」とはこの場合、人件費の安い海外に、お金のかかる開発や生産を依存させることを意味します。
 税金の安い島や地域でビジネスを行うことが、広義のオフショアです。

ITシステムの開発には、通常、多くのプログラマーが関わります。
そうしたスタッフをすべて国内で雇用していては、人件費がかさみます。
そこで、安くて優秀な人材が多くいるインドや中国で、開発の大半を行うのです。

しかし、そうした開発を上で計画したり、指揮したりする人材は、そうも行きません。
重要な情報を扱い、経営計画にも参画するわけですから、自国の本社に抱え込む必要があります。

それに、インドや中国には確かに優秀なプログラマー、エンジニアがいますが、「マネジメントまで理解したIT専門家」は、まだまだ少ないのでしょう。

今後、アメリカのIT企業は、世界中に指令を出す「指令塔」として自らを位置づけていかなければなりません。
そのためには、マネジメントとIT技術の両方に精通した専門家を、どんどん採用していかなければならないのです。

なのに、大学は旧態依然とした情報科学のコースしか用意していない!

そこに、産業界の不満がぶつけられているというわけです。

日本でも登場したMOT(Management of Tecnology)の専門職大学院はアメリカにも多くありますが、
彼らの<IT技術×経営>というニーズには、即しているとは言えないのでしょうね。

これできっとまた、アメリカのIT教育は変わっていきます。
この1~2年くらいで、カリキュラムがかなり変更されるでしょう。

何しろ、IT業界は「ドックイヤー」と言われる秒進分歩の世界。
カリキュラム変更に5年以上かけたら、もうそのカリキュラムは役に立ちません。

日本でも、アメリカと同じようなニーズが、産業界から少しずつ寄せられているはずです。
果たして、彼らの期待にこたえられるでしょうか?

先日、文系、理系という分け方の弊害という記事でも述べましたが、おそらく、そう簡単には変わらないと思います。

たとえば理工系の単科大学で、経営マネジメントや財務、会計、契約に関する授業を十分受けられる大学は、そうはありません。

「ここは理系の大学だから、あくまで情報科学のエンジニア教育に徹するんだ」

という、一見良心的そうに見えて、実は他のことが教えられないだけ、という説明が多くの教員の口からでるでしょう。
エンジニアとして働くにも、マネジメントに関する知識が求められるんだ、という現実は、気にしないことになっています。
だって、ここは「理系の大学」で、学生は「理系の学生」なんですから。

そもそも教員自体が、「優秀なエンジニアであれば大丈夫」という時代を生きてきた人なのです。
そんな教員達が、自分たちだけの会議でカリキュラムを決めているんだから、改革は期待できません。
そういうガバナンス設計になっているんだから、もうしょうがありません。

唯一「新しい学科を作る」という形でだったら、経営重視の学科を作ることに、賛成するかも知れません。
これなら、職を失う必要がないからです。

もちろん、旧い方の学科定員数は変えないままです。

でも、旧態依然とした情報科学の学科の卒業生は、今後、お互いにパイを奪い合う形になりますから、やっぱりなにか不毛なものを感じます。
学生の募集定員を減らせばいいんですが、多分、そんなこともしないでしょうね…。

未だに、土木工学で200人、300人の卒業生を送り出している大学とか、実際にあります。これが、いい例です。
社会のニーズは変わったのに、社会に対する大学の姿勢が変わらないのです。

社会に対する人材供給バランスをとるという責任は、学生に丸投げされているわけです。
どうもマイスターは腑に落ちません。

これは「学問の自由」の問題とかではないのでは…?
強いて言えば、「教員が終身雇用で暮らす権利」と、「社会が求める人材を適切に供給する責任」の戦いであるような。

教員の個人的な問題が、大学全体の問題と拮抗しているのがそもそも不幸の始まりなのではないでしょうか。
しかも悪いことに日本では、教員の個人的な考えが、大学の理念を押しのけて通ることが少なくありません。

アメリカ並みの市場主義がいいとも一概には言えません。
文学部など、直接市場とは関係が無くても、継承していくべき学問は多く存在するからです。

ただ、実学分野に関しては、やっぱりもうちょっと考えて欲しい。
社会のニーズがほとんど無くなった学科は、定員を減らすとか。

そんなことを、冒頭の記事を見ながら考えた、マイスターでした。

・文系、理系という分け方の弊害
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50020633.html